龍のシカバネ、それに月
6
「ただの靄では、色名を持つ龍の相手は分が悪うございます。本当は貴方さまを拐ってまいりたいところですが。後程また……ハコヒメさま」
そう言うと、雪乃さんはその場で薄くかき消えた。
「っ!? 消えたっ……」
「バカか、おまえは!!」
ずかずか走ってきたかと思うと、蒼河さんは僕の真横で怒鳴った。
耳がきんとする。
「実体じゃなかったから助かったものの……西龍を相手に、ボケッと喋ってるなんて」
「西龍!? 今の、雪乃さんが!?」
「実体じゃないとはいえ、西龍自ら東龍の屋敷を覗きに来ていたとは、まったく恐れ入るぜ……。
で? おまえは何ふらふら一人でこんなところにいるんだ!? 碧生さまに会いに来たんじゃなかったのか!?」
口を挟む暇もくれない勢いで怒鳴られ続けて、肩をすくめた。
雪乃さんにめくられた羽織をもう一度被る。
「……ごめんなさい。でも、青鷹さんには内緒でお願いします……」
「多分もういないってことはバレてるだろ」
「……っ!! ……やっぱり怒られますか?」
「知らねーよ!! んな、うるうるした目でこっち見んな!!」
イライラした顔で僕を睨み付けて、蒼河さんは頭を掻いた。
「わかってないみたいだけど、おまえ今、贄の匂いがぷんぷんしてんの。多分、今日碧生さまに会うから、青鷹が薬を与えなかったせいなんだろうけど。今のおまえは龍ホイホイも良いとこ!」
「龍ホイホイ!?」
確かに昨晩は、薬はなかったけど。
薬、と聞くと、反射的に使われたホテルの夜を思い出してしまう。
(あれって、毎日しないといけないの!? 一回で終わりだと思ってた)
シャツの襟元をつまんで鼻を近づける。
別に普段と変わらないみたいに思えるけど。
っていうか、『碧生さまに会うために匂いを抑えなかった』というのは、やっぱりおいしく食べられるために!?
「そういう状態の面倒くさいおまえを他の龍から守りながら、手を出すのを我慢して。俺はいったい、どこまで連れて行けば良いわけ?」
「っ!! 蒼河さんっ……連れてってくれるんですか!? ――っむ…んっ……」
顎を掬われて、唇を合わされる。
頭から被った羽織が、雪駄の足元に落ちた。
合わされた唇を開かされて、間から舌が入り込んできて。
強く押しつけられて、逃げをうつ舌を追い回される。
「んっ……んんー……っ、離しっ……」
「甘……さすが、ハコヒメさま。薬ゼロだと半端ない」
僕の腰を抱いたままで、蒼河さんが言う。
「これぐらい、護衛代にくれたって良いと思うけど」
「なっ……なんでこんなことっ……!? 護衛代って何ですか!?」
まだ外してくれない腕の中で、もぞもぞもがくのにびくともしない。
蒼河さんはキョトンとした顔で「キス?」と僕が死んでも言えない単語をあっさりと口にする。
「う、腕に触れたりするだけで、力を受けとることはできるじゃないですか」
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