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龍のシカバネ、それに月
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「どうしてそんなに落ち着き払ってるんだ!? 北龍が匣姫を連れ去り、西龍は……雪乃さまはっ……」

「『滅』するかもしれないのに?」

 その場に、誰もいなくなってしまった土の上に、怒りにまかせて紅騎を引き倒した。
 泥に汚れた襟元を掴んで。

 やってることがさっきの男と同じじゃないか。
 もう一人の自分の囁きに、はっと我に返った時、紅騎が下から唇を合わせてきた。

 くちゅ、と儚い水音がする。
 初めて撫でられた口の中の感触に、俺は凍りついた。

 俺より一つ年下の紅騎は、たった11だ。
 子供に何ができると喚いた男の言葉通り、11の紅騎が口づけを求めてきたからと言って、お互いに何ができる?

 そもそも俺は、体の交合など知らない。
 紅騎も同じだと、その時の俺は思い込んできた。

「……ねぇ、灰爾。体を繋げようよ。気持ち良いよ……? 俺が、教えてあげるから……」

 俺の白い狩衣の襟を開いて、紅騎の手がするすると入ってきて、肌を撫でた。

 こんなことをしている場合じゃない。
 こんなことをしている場合じゃ……。

 早く雪乃さまを止めなければ、西龍は滅に陥る。

「灰爾……俺に任せて……」



「灰爾……俺に任せて……」

 同じ台詞を吐く紅騎が、今俺の部屋にいる。
 同じように、俺の体に触れて、埋もれている快楽を引きずり出してくる。

 手に握りこんだお互いのものが、紅騎の手のうちで白濁を滲ませる。

 熱を持った目をした紅騎は、何かを隠そうとしている。
 重大な何かを。

 12年前のあの日。
 舞姫を前にした、幻の雪乃さまに囁いたのは紅騎だ。

──あれは朋哉さまではありません。貴方さまの月哉さまです。

 と──。

『二つ月』である朋哉さまの器に、月哉さまが入りこんでいることを察知し、それを雪乃さまに伝えた。
 俺に操られ、幻でしかなかった雪乃さまの魂を揺り起こし、月哉さまを追うように仕向けた。

 紅騎は俺に、雪乃さまを操る力を持つ俺に、正気であって欲しくはなかった。
 すべては南龍のために……?

「んっ、ああっ……も、いく……」

 甘い嬌声と熱の滲んだ目。
 あの時と同じ、火を隠した紅騎。
 赤く染まった耳元に唇を寄せる。

「紅騎。何をしてきた? 今度は何を隠してんの? 俺にも教えてよ……」

「ああっ……ふ…… ……ん…」

 手に白濁を吐き、俯いたまま、肩で息をする紅騎が、くすくすと笑いを溢している。
 さっきまで別人のように乱れていた体は白濁に濡れ、赤く染まった唇の端を引き上げて。

 ゆっくりと顔を上げて俺を見る紅騎は、壮絶に美しかった。

 子供だった12年前。
 体の交合を持った後に見せた笑みと同じに。

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