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龍のシカバネ、それに月
2
 不機嫌を隠すつもりでかぶりついた饅頭が意外にも美味かった。

「なんで朋哉さまとおまえが、一緒に歩いてたんだよ?」

「……朋哉さま?」

 歯型の残った饅頭を片手に、紅騎は一瞬空白ができたような顔をした。
 いつも無表情な紅騎が、きょとんとした顔をするなんて珍しいことだ。

 何かある、と察知はしたものの、紅騎はすぐに表情を戻して「別に」とまた同じ答えを返してきた。

「なんだよ? 隠すなよ」

「迷っておられたから。帰り道がわからないみたいで。だから送ってさしあげただけだ」

 そう言い切るとぷいと視線を逸らした。

 おかしな話だ。
 匣姫が匣宮へ帰る道がわからないなんて、ありえない。
 嘘だ、と思った。
 この高慢な名門出のお坊ちゃんは、人を馬鹿にして、からかっているのだと。





(今にして思えば、あれは『本当のこと』だったんだ)

 火のように熱い紅龍の舌を口腔に受けながら、俺はあの時の紅騎の言葉を思い返した。

──……朋哉さま?

『二つ月』の朋哉さまは、その時『匣宮朋哉』ではなかった。
 何か別の存在に、器を乗っ取られていた。

──迷っておられたから。帰り道がわからないみたいで。だから送ってさしあげただけだ。

『匣宮朋哉』ではなかった。
 だから匣宮が帰る場所である事実も知らなかった。

 紅騎はそれらを自然に察知し、受け止め、対処していたのだ。

(なぜだ……? 紅龍嫡男だからなのか?)

 すべてに恵まれた南龍嫡男。
 それなのに、いつも覇気というものをどこかに置いてきたかのような目をしている紅騎。
 その能力に、嫉妬していた。

「……っは、ん……、灰爾……」

 甘えた声を出しながら、両腕を肩に回してくる。
 今日の紅騎は……違う。
 どこか、違う。
 何かを隠すための媚態にも見える。

 あの時と、同じに。

「紅騎、何があったんだ……?」

 一瞬、目に灯った熱が冷めたように見えた。
 俺の視界の中、視線を移ろわせ、紅騎は肩から外した手で、俺と自分との下衣の前を寛げ、腰を寄せてきた。

「……擦って。一緒に」





 あれは、北龍の放った呪詛の夜だった。
 俺の術中にあるはずの、幻の雪乃さまが制御不能になってしまった。

「全隊前進! 北龍の影の一つも残すな! 匣姫を取り戻せ!」

「雪乃さま! 無謀です、北龍の影は数が多すぎる! 直進だけで何の策もないまま──」

「黙りなさい、灰爾。勝手は許しません。
 ……もどすのです、……やを……」

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あきゅろす。
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