龍のシカバネ、それに月
4
意識がやばい。
頭がくらくらして、息が上がる。
手が、勝手に彼女の体へと伸びる。
白い、柔らかな肌。
優月そっくりの顔が、小さく動いた。
同じだ。
幼い日、眠っている優月に触れていた、あの時の顔と。
かしゃん、と金属音がした。
格子の戸が閉じられ、その外側に鍵を手にした紅騎が立っている。
ことんと音を立てて、灯りが床に置かれる。
「早く受精させてよ、朝緋。受精させて、匣の力を持つ子を作って、頭領になってよ。
南龍はもう……、待つのをやめると決めたんだ……」
「っ……はぁ、……はぁ……何っ?……」
何を、やめると言ったんだ?
自分の息がうるさい。
紅騎が何を言っているのか、よくわからない。
俺が南龍頭領になる?
受精、させる?
この子は誰だ?
……優月……?
胸元に結んだ寝間着の紐をほどくと、白い肌が露になった。
優月と同じ。
滑らかな白い肌……。
「南龍はもう、匣姫配置を待たない。作るんだよ、自分で。――南龍だけの、匣姫をね……」
紅騎が儚い灯りを置いて、その場を去っていく。
携帯でか、誰かと喋っている声が小さくなっていく。
「灰爾? ああ、今から行くよ……ごめん、ヤボ用で遅れた」
…………。
紅騎の足音が遠退く。
それはわかったのに、俺は紅騎を呼び止めることはできなかった。
体が言うことを利かない。
「……はぁ……はぁ……っく……」
このままじゃ、大変なことになる。
南龍が匣宮を裏切り、人工的に匣姫を作る。
そんな大罪、南龍に犯させてはならない。
わかっている。
俺がこの子に手を出さなければ良いだけだ。
紅騎の思うとおりになんかなるか。
この子は優月じゃないし、ましてこんなことに利用して良いはずがない。
わかっている。
……わかっているのに、体が勝手に動き出す。
白い肌に、唇が勝手に鬱血の痕を散らしていく。
「……優月……」
わかっている……このままじゃ、南龍が堕ちる。
南龍も、俺も。
優月も、匣宮も、裏切ることなど許されない。
自分が何をどうすれば良いのかわかって……いる。
だけど。
俺は、自分が何をしているのか、まるでわかってイなかッ……
…………
…………
……呻き声が聞こえる。
「あさひ」と、掠れた声が、今や地下牢全体に広がる闇の中に、小さく長く、反響していた。
『龍のシカバネ、それに月』了
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ご愛読ありがとうございました!<(_ _)>
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