龍のシカバネ、それに月
3
激昂する俺に動じる様子もなく、紅騎は取り落とした灯りと瓶を拾い上げた。
灯りを浴びていない紅騎が、今どんな顔をしているか、全然わからない。
「朝緋。おまえ、今から南龍頭領になれ」
「は? さっきから意味わかんねーんだけど……、……っ!?」
どくんと胸が打った。
何だ?
体が、熱い。
息が上がる。
体が、おかしい……
「な、何飲ませやがったん、だよ……!?」
「精を受けていない葉月匣姫の卵(らん)はたくさん採取して、胎果として残させた。その瓶の中身が、全部そうだ。
……でもこれ、いつまでこのままの状態で生きられるのかな……」
ふわりと灯りが動く。
紅騎の言う通り、ずらりと並んだ硝子瓶の一つに一つ、ビー玉が浮いたり沈んだりしているのが見える。
気味が悪い。
葉月匣姫の腹から取り出した『卵』!?
胎果として残させたって、いったい何の話なんだ……。
葉月匣姫……どこかで聞いたことがある。
そうだ、昔、南龍が北龍からさらった影時の母親じゃなかったか?
その無精卵を瓶のなかに保存?
何なんだ、それ……そんな非人道的な話があるか……。
闇の奥から、また呻き声が聞こえた。
やっぱり「こうき」と恨めしそうに言っているように聞こえるのは気のせいなのか?
その声が、知っているような気がするのも……?
(『死んだ』と手紙にはあったじゃないか!)
頭がぐちゃぐちゃになる。
呻き声は、父頭領 朱李のものに酷似していた。
「弟がいると聞いて、ほっとできたんだ。何しろ俺は、罪人だからな……頭領にはなれない」
「何……罪って……先代や先々代が匣姫の卵を保存したことを黙っていたことか……? それを守ってきたこと……? だったらもうやめれば良い。処分すれば……」
灯りが揺れて、何も言わない紅騎が俺を見ているのがわかった。
「それだけじゃない。それだけじゃ……終われない」
灯りが広げる視界が、紅騎から床に広げた布団へ移った。
さっき、ちらっと見えた通り、人が横たわっている。
2本の脚。
ゆっくりと彼女に灯りが近づくと、俺は「あっ」と声を上げてしまった。
「優月っ……!? 嘘……いや、そんなわけない。優月はさっき電話でしゃべった……」
「悪いけど、優月じゃないよ。南龍の子だ。優月によく似た子を探すのが大変だった。朝緋の好みくらいは叶えてあげたくてさ。男の子のほうが良かったかもしれないけど、そこは我慢してよ」
「その子……何……」
悪い予感がする。
体が、熱い。
さっき飲まされた薬のせいだろうか、息が上がってきた。
灯りがまたふわりと動いて、優月にそっくりな、眠っている少女に向けられた。
「この子の腹に、さっき見せた葉月匣姫の卵の一つを仕込んである」
「……は?……」
何を言ってるんだ?
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