龍のシカバネ、それに月
2
紅騎が灯りを持って入っていく格子の戸を、俺も従っていく。
ずらりと古びた木棚に、硝子瓶が並べられているようだ。
灯りを自分の都合で動かす紅騎のせいで、中身はよく見えない。
目を凝らして瓶に気を取られていると、足元で、何か布のようなものを踏みそうになった。
「わっ……?……」
「ああ。足元、気をつけて。人が寝てるんだから、踏んじゃだめだよ」
「ひ、ひと?」
「…………。間違えた。人じゃなくて、龍」
ここではどっちでも一緒だ。
半分呆れたような気持ちでいると、どこかから呻き声のような音が聞こえたような気がした。
「……? 何……」
辺りを見回しても闇が広がっているばかりだ。
足元に一人いることはわかった。
聞こえたのが声だとしたら、それはもう一人の?
ぶるっと寒気が走った気がした。
俺の様子に気づいたのか、紅騎が振り返って俺の視線を追った。
地下牢の、奥。
闇に包まれて見えない場所へ。
また、聞こえた。
喉の奥から絞り出すような掠れた音で、「こうき」と聞こえた……気がする。
それも、聞き覚えのある声だと思った瞬間、また寒気が走った。
一緒に奥の広がる闇を見ていたはずの紅騎が、いつの間にか冷めた目で俺を見ていたから。
「俺はね。離れ離れになった弟がいると聞いた時、嬉しかった」
唐突に何の話をしだすのか。
そんな昔話よりも、奥から聞こえる呻き声の説明をしてくれよ。
「早く会いたくてたまらなかったよ」
「どうして……」
そんな話を?
そう言おうとした時、紅騎が瓶を1つ手に取って、床に膝をついた。
灯りが下がったせいで足元が見えた。
布団?
それに、細めの脚が2本。
誰かが、多分女が横たえられているのがわかった。
(誰かが、横になっている?)
俺も紅騎に合わせて、床に腰を落とした。
紅騎は、手に持った瓶に灯りを近づけた。
さっきはよく見えなかったものがよく見える。
何か透明な液体の中に、3ミリほどの小さなピンク色の塊が見える。
よく見ると、それはビー玉のような丸い膜につつまれて浮かんでいるようだった。
「胎果だよ」
「タイカ?」
「ただし、これは受精していない」
俺の疑問には答えず、紅騎は急に唇を重ねてきた。
「!? ――――っ……!?」
慌てて突き離そうとした瞬間、口移しで何かを飲まされた。
尻餅をついた衝動で、それはごくんと喉を下っていった。
喉がカッと熱くなる。
……何……
「ばっ……! 何してんだ、紅騎! 何飲ませやかった!」
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