龍のシカバネ、それに月
2
にこにこと笑みを浮かべて言う珠生さんに、おばあさんは、
「しかし、わしとていつお迎えがあるかわからんぞ」
と言うと、珠生さんはきょとんと表情を止めた。
「華月子さまでも寿命ってあるんですか?」
ほざけ!! と喚くおばあさんの声に、泣き出していた青陽は繊細な子だと当初思われていたんだけど。
成長に従って、それなりのやんちゃになってきた。
怒られる予感に、ぷっと赤い頬をふくらませて、僕を睨み付けてくる青陽に、腰を落として目線を合わせる。
青陽の顔を見るたびに思うことだけど、青鷹さんの小さい頃って、こんな感じだったのかな?
青陽を見てから青鷹さんを見ると、失礼だけと(可愛い……)などと思ってしまうのは秘密だ。
「ね、青陽。ここがどこなのか、わかる?」
てっきり大きな声で怒られるとばかり思っていたのか、青陽はきょとんと目を見開いてから、周りを見回した。
墓石の立ち並ぶ、静かな場所。
「おはか……?」
そう、走り回る場所じゃないよ、と諭そうとした途端、横からやってきた灰爾さんが青陽の肩をがしっと掴んだ。
吃驚顔の青陽にずいと顔を近づける。
「青陽ちゃん。お墓で転ぶと、次に死んじゃうんだよ?」
「う……うそ……」
さあ? と笑って「教えて欲しかったらほっぺにちゅ♪ ってして」といつものノリで言う灰爾さんから走って逃げてきた青陽が、僕の手をぎゅっと握った。
「嘘つき灰爾さまっ! キライっ!」
「青陽、失礼なこと言っちゃだめです。灰爾さんもあんまり脅かさないで下さいよ」
笑う灰爾さんに青鷹さんが軽く拳骨を落とした。
「……帰りましょうか」
青鷹さんを振り返ると「ああ」と短い返事を返してくる青鷹さんと並んで、墓地の階段を下りていく。
父さん、母さん、蒼河さんと波真の人たち、雪乃さまと西龍の人たち……多くの龍の眠るこの地に、一度は挨拶しておきたかった。
そして必ず、四龍を守るという約束を。
灰爾さんはまだ独り身で、あのマンションで暮らしている。
華月子おばあさんからの見合い写真攻撃にも、まったく意に介さない。
「せっかくだから受け取るんだけど。なーんか好みの子、いないんだよねぇ。優月ちゃんを奪われた俺としては、優月ちゃんよりカワイイ子じゃないと嫌でしょ?」
「誰が『奪われた』んだ?」
怒声で横やりを入れてくる青鷹さんを無視して、灰爾さんは、困るよね、と笑う。
灰爾さんを相手にしているおばあさんのほうが、多分よっぽど困っていると思う。
「ごはん、食べに来ませんか? 灰爾さん」
誘うと「約束あるから。ごめんね」と踵を返して行った。
(今日は写真、届いてないと良いね)
いや、西龍のためには届いていたほうが良いのか?
早く“好みの子”とやらが現れて、西龍繁栄の礎になってもらいたいと思うのが、匣姫として考えるべきことなんだろうか。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!