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龍のシカバネ、それに月
2

 腰を掴む手が、熱くて、強くて。
 揺すぶられると、夜明けの景色の色が、全部涙で溶けていく。
 わけもわからないまま、激しく中を突かれて、出る声も自分のものとは思えない。

「あっ、ああっ、あ、んっ……ん」

 甘くて、鼻にかかった、まるで女の子みたいな。

(って僕、『こういう時』の女の子の声、知らないんだけど)

 そんなどうでも良いことを考えていたのを見透かされたのか、青鷹さんが敏感な場所に突き入れてきた。

「あぅっ……! や、そこぉ……っ」

「何か、考えてたろ? 何考えてる?」

「別にっ……大したことじゃ……あっ、……あ、んんっ……」

 揺さぶられながら答えるのなんて、絶対に無理。
 そのまま、青鷹さんの好きなようにされて、翻弄されて。
 僕は昨晩と同じに、快楽の絶頂からまた眠りの淵へと落ちて行った。







 目が覚めたら、天井を背景に、華月子おばあさんが覗き込んでいるのが見えた。

「…………。……ゆめ……?」

 じゃ、さっきのも夢?
 さっき青鷹さんに覗きこまれていた、あれも夢?

「夢ではないぞ。優月匣姫、何時だと思われてか」

 呆れたような口調のおばあさんが「もう夕方じゃぞ」と言うから、慌てて身を起こした。
 おばあさんが言う通り、時計の針は確かに夕方だと知らせている。
 小柄なおばあさんは僕の布団の横に座し、もっと背を低くしてじろりと呆れた視線をくれた。

「ずいぶんと青鷹頭領に甘やかされておいでなようじゃが。龍のための祈りや力の分散、匣姫の勤めは果たしておいでか?」

「もっ、もちろんです。それはちゃんと! あのっ、今日はちょっと寝坊したというか……あの、ごめんなさい」

 慌てて布団を片付けて寝間着から着替えていると、ふと背中を触られて、吃驚してとびあがりそうになった。

「あ、あの……?……」

 振り返ると触っていたのは立ち上がったおばあさんで。
 僕の背中や首をじっと見つめてから、しみじみと言った。

「可愛がられておいでじゃの。優月匣姫」

「――――っ!」

 青鷹さんが強すぎるキスをくれた痕のことだと気づいて、慌てて服を着た。
 何をしみじみと言うんだ、何を。

「匣姫は本来、愛されてこその力の匣じゃ。それで良い」

 恥ずかしくて顔を上げられないまま、小引出しに入れておいた、例のビー玉を取り出した。

 手のひらの上で小さく転がり、中で気泡を上げている。
 中心にいるピンク色のものに変わりはない。大きくもなっていないし、小さくもなっていない。

(まるで、眠っているようだ)

 馬鹿な。
 こんなに冷たいもの、生きているわけでもないというのに。

「準備はできたかの。して、青鷹頭領はどうなさる? お付きあいくださるお心づもりでおられるのか?」

 わしはどっちでも良いが、と続く華月子おばあさんの言葉に「ああ」と思い出す。


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