龍のシカバネ、それに月
3
(ハコ。ハコって、どうやってなるんだろう?)
ちら、と隣にいる久賀さんに目をやる。
この人はその方法を知っているだろうけど、多分教えてくれない。
久賀さんの目的は、僕を東龍宗家である井葉さんに引き渡すことだから。
あとは誰が知っているだろう。
僕を手に入れたがっている龍なら、みんな知っているんだろうけど……リスクが高い。
捕まってしまったら、久賀さんに迷惑をかけてしまう。
――おまえの父親の実家はハコミヤだろう。
(海路さんが言ってた。ハコミヤ……父さんが勘当された実家)
そこなら、『ハコ』の何かがわかるかもしれない。
行ってみたい。
少し覗いてくるだけでも良いから。
「あ、あのっ、久賀さんっ」
久賀さんは目だけで呆れたような顔をして僕を見た。
「“青鷹”」
「は、はる……たか、さんにお願いがあるんですけどっ……」
「…………。ちょっと辿々しいけど、まぁ良いか。何?」
ごくん、と唾液が下る音がした。
「東龍にお会いした後、ハコミヤに連れて行ってもらえませんか?」
にこにこ笑っていた顔が、急に不機嫌になってしまった。
眉根を潜めて息を吐く。
「……今のハコミヤに行っても、何もない」
同じことを海路さんにも聞いた。
でも。
「それでも、行ってみたいんです。お願いします」
「優月、落ちついてくれ。君はここで東龍のそばにいるんだ」
「東龍のハコになっても、ずっと井葉の家にいなくてもいい、僕がいたい場所にいていいって青鷹さん、言いましたよね?」
青鷹さんはぐっと言葉に詰まったように、唇を引き結んだ。
「……碧生さまが許して下さったら、の話だ」
「……じゃあ僕、このままここにいなくちゃいけないんですか? 青鷹、さんから離れて? そんなの」
そんなの、聞いてない。
井葉の家には通いでも良いって言ったのに。
「優月。おまえは東龍のハコになるんだ。俺の近くにいる必要はない。碧生さまはお優しい方だ、万事従いて行けば――」
「じゃあ、じゃあ僕……青鷹さんのハコになります……っ」
「バカなことを言うな!!」
青鷹さんが怒気を含んだ声をあげたタイミングで、する、と襖が開いて、地味な和服姿の女性が顔を出した。
「優月さまにお召し変えをと、碧生さまから承っておりまして」
よろしいですか? と青鷹さんを窺う。
さっきまでの言い争いが聞こえていたんだろう。
青鷹さんは様子を図るように僕を見た。
「彼女に従いて行きなさい」
「……っ……。……」
言葉が出ない僕に「優月」と促してくる。
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