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龍のシカバネ、それに月
8

 去りかけた青鷹が、立ち止まって振り返ったのは、エントランスにいた優月が、何かを言って引き留めたからに違いない。

「ごめんね、優月ちゃん」

 君を、手放したくなくて。
 手放して、あげられなくて……。







 バスルームから出た部屋は薄暗くなっていた。
 リビングのカーテンが閉まっていて、それに続く寝室のドアが開いていて。
 中はやっぱり薄暗く、間接照明だけがふんわりと光を放っている。

「おいで、優月ちゃん」

 寝室から聞こえる灰爾さんの声に、胸を痛ませながら進んだ。
 パジャマに身を包んだ僕と、半裸の灰爾さん。

 ベッドの上掛けをゆっくりとめくられて、僕は素直に灰爾さんの隣にすわった。
 灰爾さんの腕が、肩に回ってくる。
 風呂あがりの僕より、ほんの少し冷たい胸元が背中にくっついてきて、前に回った両手が、パジャマのボタンを1つずつ丁寧に外して行った。

「震えてる。寒いわけじゃないよね?」

「大丈夫です。き、緊張して……」

 そっか、と笑う唇が、僕の首筋に触れていく。
 ボタンが全部外されたパジャマの上衣が、するりと肩を落ちた。
 その下の肌に、灰爾さんの唇が触れていくのがわかった。

「怖がらないで。大丈夫だから」

 背筋を撫でていた舌がふと離れて、気付くと僕の目の前にあった。
 こめかみに、触れるだけのキス。
 耳殻をそっと撫でて、唇を重ねる。

 僕より少し冷たかったはずの体温は、いつの間にか上がっていて、触れると熱いと感じるようになっていた。

「口、ぎゅっとしないで。力、抜いて」

「ふぇ……?」

 無意識に引き結んでいた唇が、返事をすることで小さく緩んだ。
 その隙間から、蕩けた舌が入り込んでくる。

(熱……)

 それだけで生きてでもいるかのような灰爾さんの舌は、口腔を撫で、僕の舌に絡んだ。
 熱さと、ぬるりとした感触がたまらなくて、息が上がってしまった。

「……ふ……」

「優月ちゃん。好きだよ。可愛い……」

 聞いたことのないような甘い声で囁く灰爾さんの声に、耳元が震えそうになった。
 背中がぞくりと粟立つ。
 いつも明るく「好きだ」とか「ハニー」とか軽口を叩いてくる灰爾さんとはまったくの別人だ。

 丁寧に触れてくる灰爾さんの指が心地良くて、まぶたが半分落ちかける。
 白い天井。
 灰爾さんの部屋。
 僕は匣の匂いを全開にして、西龍頭領に力を与えようとしている。

(これで良いんだ。これが、応龍の示した正しい道なんだから)

 体を反転させて、少し驚いたような灰爾さんの肩に抱きついた。
 熱く灯った肩は、思ったよりしっかりしていて、うまく腕を回せなかった。

「優月ちゃん……?」

 暖かい肩に鼻先を擦りよせた。
 爽やかな、良い匂いがする。
 青鷹さんとは違う薫り。

(…………)


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あきゅろす。
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