龍のシカバネ、それに月
2
「……はい」
車をロックした久賀さんがこっちに回ってくるまでの間、蒼河さんはじっと僕を見ていた。
「おまえ、中学生ぐらい?」
「なっ……違います。高2です!」
「え、うっそ、一個下なだけ!? 見えない!!」
な、なんか印象違う。
最初に合ったときはもっと気取ってたっていうか。
(年が近いってわかったからかな。でも多分、こっちが地の蒼河さんっぽい)
大袈裟に驚いて見せる蒼河さんに、久賀さんは「何しに来た」と無愛想に問う。
蒼河さんは笑って「怖い顔しちゃって」と返しながら、僕を見た。
「青鷹はハコが欲しくないの?」
自分のことを言われているんだと、ドキッとする。
多分、誰かのハコになったらその人のそばにいて、力を与えていくってことになるんだろう。
久賀さんが僕をハコとして置いてくれるなら、僕はずっと久賀さんのそばにいられる。
改めて言われると、そんな夢みたいなことを考えてしまう。
蒼河さんはまだ僕を見ていた。
「俺、優月が欲しい。優月が俺のハコになったら、俺は碧生(たまき)さまも青鷹も超えて、東龍になれる」
(『東龍になる』? 東龍って、東龍として生まれてくるんじゃなくて、後からなるものなんだ)
それも優月がいればということは、力の増幅量が高ければ高いほど有利。
意外に実力社会なんだと思った。
(じゃあ、僕が久賀さんのそばにいて久賀さんを東龍にすることは可能……てこと)
ぼんやり考えていたら、久賀さんに手を取られた。
「蒼河。いつまでも子供みたいに、バカなことをこだわるな。俺はともかく、碧生さまを超えることなぞ誰にもできない」
後からゆっくりした足取りで、蒼河さんが従いてくる。
「優月が、俺を愛しても?」
(……? なに、それ……)
蒼河さんの話に振り返りたくなっているのに、久賀さんの引く力が強くて無理だった。 久賀さんは前を向いたまま、蒼河さんに向かって語調荒く言う。
「何世代前の話をしている?
もう帰りなさい。だいたい学校はどうした? こんなところでふらふらして」
広く開け放した玄関を上がって、牡丹が大きく描かれた衝立を過ぎて。
蒼河さんは、家の中までは追ってこなかった。
そして、話は冒頭の客間に戻る。
隣に久賀さんがすわっているけど、無言だ。
さっきの、蒼河さんのことを考えているんだろうか。
(僕が、久賀さんのそばにいれば、久賀さんが東龍になれる……?)
そして僕は、ずっと久賀さんのそばにいられる……?
――君がトウリュウのハコでなければならないからだ。
久賀さんが東龍なら、僕はどこにも行かなくて良いってこと……。
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