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龍のシカバネ、それに月
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 門を過ぎて中に入ると、丸太の積んである場所にちょこんと、ヘルメットを被った和服姿の朋哉さんがすわっていた。

「え!? 朋哉さん!? なんで!?」

 いつもなら珠生さんが監督として立っているのに。
 朋哉さんは自分の隣の丸太をぽんぽん叩いて、座れと目で言ってきた。
 おずおずと言う通りにすると、ヘルメットを被せられた後、饅頭を手渡された。
 よく見ると朋哉さんの向こう側に、幾つもの菓子が積んである。
 完全に物見遊山だ。

「珠生が『今日は東の用事があるから、匣宮には行けない』と言うので、代わりに現場監督として来てみたんだが」

 いや、その感じ、全然現場監督じゃないですけど。
 思ったことを言いそうになって、慌てて饅頭を口に突っ込んだ。

「埃っぽいから、そんな綺麗な着物じゃいられないんじゃないですか?」

「いや、それは別に。……なかなか、面白いものだと思ってな」

「面白い、ですか?」

 うん、と言いながら、湯飲みの茶をすする。

「まだ匣宮で寝起きしていたあの頃の匣宮に、だんだん戻っていく。ここだけ時間が逆戻りしていくみたいだ」

「そっか、そうですよね」

 朋哉さんは、匣宮が生きていた時を知っているから。
 僕には、全部が新しく見えるけれど。

 饅頭を口にくわえながら立ち上がった朋哉さんが手を差し出してきた。

「来て。ちょっと案内してあげる」

 さくさくと土を踏む朋哉さんに連れられて、あちこちで槌を振るう龍たち込みで建物の説明を簡単にくれる。

 過去、儀の時に舞を舞った舞台の前では朋哉さんも足を止めた。
 しばらくの間、無言でじっと眺めていた。
 まだ工事も着手されていなくて、雑草も生えほうだいのその舞台に、ゆっくりと目を細めて。

 思うことは、夢幻。
 遠いような近いような、過去の思いを甦らせる。

「行こう。俺の秘密の場所を教えてあげるよ」

「秘密の場所、ですか」

 そう、と含み笑いしながら歩く朋哉さんに従いて歩きながら、ふと南龍屋敷の山茶花の部屋を想像していた。
 中に入って部屋ごと移動してしまうような、複雑な術を絡めた隠し部屋。
 そんなことを思っていたら、朋哉さんの足が小さな社の前で止まった。

「ここ……」

「ばばあが作った水龍社。つまり、北龍神をまつる社。当時はそんなことも知らなかったけど」

 裏から入れるんだよね、と知った動きで裏側に回る。
 ここだけは、それほど壊されていない。

(華月子おばあさんが作った、北龍の社……?)

 実際に何度も何度も話し合ったに違いない、おばあさんと北龍影時。
 埒の開かない長丁場に、おばあさんは北龍をまつる社を建てた。
 匣宮の片隅、人目につかない場所で、亡くなった影時の父に祈りを捧げたんだろうか。

「ばばあが神頼みって笑えるだろ? 応龍にすら話ができる託占者だってのにさ。わざわざ社なんか建てて、こっから祈ってさ」


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あきゅろす。
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