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龍のシカバネ、それに月
7

「同じ西の血のせいかな。朋哉さまを救おうと力を重ねた時に、本当に同じ性質の力を持ってるんだなって思ったんだよ。感じたんだ、この手のひらに。優月ちゃんの中にも、西の血があることを」

 僕も、同じように僕の手のひらを見た。
 あの時、朋哉さんを救いたいと思ったときの、灰爾さんの手の温度が心地好くて。
 導かれる安心感に、不安はなかった。

(同じ、西の龍だからなのか?)

 それに、と灰爾さんはつけ加えた。

「俺の両親は無名の龍でね。色名を賜るなんて、とんでもない奇蹟だった。そういう意味では、ちゃんとした血筋で力を受け継いでいた青鷹や紅騎に引け目はあったかな。雪乃さまのお側に行くことなんて不可能だった。
何か儀があっても、遠くからお姿を眺めることが精一杯でね。だから、本当はびびってる」

 そういえば会談の日、幻だった雪乃さまが言っていた。
 灰爾さんは、雪乃さまが見つけ出した、無名の色名龍だったと。

 優秀な色名龍を輩出した実績を持つ血筋が、色名の才を持つ子を有していることは、多分珍しくない。
 紅騎さんも朝陽もそうだった。
 僕が知っているだけでも、父親である朱李さま、母親である茜さま、叔母にあたる桜子……母さんも、力のある色名龍だった。
 紅騎さんや朝陽が才を持って生まれてきても、そう不思議はない。

 でも、灰爾さんは違う。
 まったくの無名の血筋から、頭領である雪乃さま直々に見いだされて育てられてきたのだ。

(それって、『代々〜』っていうより凄いことなのかもしれない)

 それなのに。

「『本当はびびってる』って何に怖がってるんですか?」

「俺みたいな何もなかったはずの龍が頭領で、あまつさえ、匣姫サマを自分のものにするなんて、あって良いのかな、って……」

 そう言って、ぎこちなく笑う。

「灰爾さん……」

 僕だって同じだ。
 僕なんて、母さんが亡くなるまで、本当に何も知らなくて。
 そんな時に、青鷹さんが――

(…………。青鷹さんのことは、忘れなくちゃ)

 僕は、西の、雪乃さまが守りたかった西の匣姫になったんだから。

「あの、……よろしく、お願いします……」

 手を、灰爾さんに伸ばす。
 大丈夫、触れられるはず。

 灰爾さんは、応龍が選んだ僕の、一生の人なんだから触れないはずがない。
 伸ばした指先が、小刻みに揺れる。
 それを、灰爾さんがじっと見ているのがわかる。
 触れるのを続けるのか、やめてしまうのかを。

「『良いの? 本当に?』って聞けば良い?」

「え……」

 真っ直ぐに見据えてくる目に怯んで、伸ばしかけた手を緩めた時、その手首を灰爾さんの手がぱしっと音を立てて取った。
 そのまま、ぐいと引き寄せられる。
 息がかかるほどの距離に驚いて身を引くのに、手の力が強くて全然動かない。

「灰爾さんっ……!」

「そんなこと聞いてやらない。青鷹には返さない」


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あきゅろす。
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