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龍のシカバネ、それに月
3

 布団の中からの呼びかけに、静さんは「はい!」と興奮冷めやらぬ語調で返してくる。

「もう少し小さい声でしゃべって下さい。 あと……浩子さま」

 はい、とこちらはまた小さすぎる声で 返ってくる。

「さっき飲んだ痛み止め、あと何分くらい で効きますか……?」

 結局、青鷹さんに会えたのは1週間後になってからだった。

 認めたくないけど。
 僕は、この期に及んで怖かったのだ。
 配置先を知ることが、とても。

 東ならもちろん嬉しい。
 でもそれ以外なら?
 僕はどうしたら良い?
 託占で決まったら行くしかない。

(青鷹さんと、別れ別れで生きる)

 布団で円くなったままさざめいていた心 をどうにか納めようとしていたのは、無意識に内容を予知していたのだろうか。
 本当のところはわからない。
 悪い予感が脳裏を掠めていたような気がした。









「匣姫配置は西 林灰爾とする。この度は 応龍交代に多忙を極めており、加えて匣宮再建も進んでいないため、儀は見送りとする」

 以前、藍架さまがすわっていた場所に、青鷹さんが普通にいるのは変だと思いながら、長い半紙に書かれた文字を読み上げられるのをぼんやり聞いた。

 そばにすわってくれている静さんが、僕の方をちらちら見ているのに気づいていた。
 時折、静さんに「大丈夫です」と振り返った。

(儀がない、のは助かる、かも)

 儀の舞台となる匣宮がまだ廃墟であるという理由で、儀そのものがなくなった。
 代わりに東龍屋敷や、南龍屋敷に特設会 場を作ってでも決行と言われたら大変だと、内心どきどきしていた。

(だってあのすごい衣装を着て、踊るん…… だったよね?)

 絶対無理だと思う。
 多分朋哉さんか狐のおばあさんがびしびししごいてくれるんだとは思うけど、マスターする日を待ってたら一生配置なんかできないに違いない。

「西 、か」

 青鷹さんが一段高い場所に、東の頭領として呟いた。
 周りには東の色名龍がずらりと座して、青鷹さんの一挙一動を見守っている。
 長い半紙を丸くまとめながら、青鷹さんは頭領らしく微笑を浮かべて僕を見た。

「灰爾なら、大丈夫だ。優月を……優月匣 姫を大事にしてくれる。何より、優月に とっても雪乃さまの一族なんだから、いや すいだろう」

「はい」

 他に言葉が見つけられない。
 こんな瞬間があるかもしれないって予想はしていたのに、台詞までは考えていなかった。
 考えていたとしても、頭が真っ白になって思い出せなかっただろう。

「……長い間、青鷹さまにはお世話になりました」

 頭領に話す話し方なんて、わからないな。
 言えた言葉も、この場において果たしてベストだったかどうか。

『灰爾なら大丈夫』。

 青鷹さんの口からそんな言葉、聞きたくなかったし、言われた僕もどう答えたら良いかわからなかったから。

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