龍のシカバネ、それに月
2
化け物にでもなってしまったような気持ちになっていた。
あんなに完全な『匣姫の体』になりたくて仕方がなかったのに、今は怖い。
これからどうなってしまうのか、予想がつかないことが怖い。
今朝一度、朋哉さんが覗きに来てくれて、慌てて事情を説明したら、うんうんと頷いたあと「正常」と言った。
「は!? 血が出てるんですよ!?」
ひそひそ声の大声で喚くのに、けろりとした顔で「正常に機能してるって証拠だから」とだけ言って、さっさと帰って行ってしまった。
あとの説明は浩子さまが、丁寧に教えてくれた。
(ショックだ……)
朋哉さんがあっさりした性格なのは知ってるけど、何も女の人である浩子さまに、生理の有り様を説明させなくても良いと思う。
もっとも、恥ずかしがっているのは僕だけで、浩子さまはいつも通り淡々としていたわけなんだけど。
(なんかすごく恥ずかしかった……)
その浩子さまが退出しようとしている と、ばたばたと廊下を走って誰か近づいてくる足音が聞こえた。
静さんだった。
珍しい。
静さんが廊下を走るなんて。
「優月さまっ……て、何昼間から寝てるんですか!?」
「え? いや、何って……」
しどろもどろになっているも、静さんはそれどころではないらしく。
「書簡が来たんですよ! 匣宮から!」
「匣宮から……? あの廃墟の?」
「ええっとつまり……狐のお面のおばあさまからです!」
「へー……華月子おばあさんから……」
それがどうしたんだ、と言いそうになっていると、そばにいた浩子さまがぼそりと「託占では」と呟いた。
「た、託占!? 託占て、郵便で来るの!?」
「何をおっしゃいます、郵便で届くわけないじゃないですか。ちゃんと、使いの狐が届けにきました!」
大真面目な顔で言う静さんに、一瞬二の句が告げなかった。
「狐って……お面の狐じゃなくて、あの、四本足の狐?」
そうですよ、と静さんが当然のような口振りで言った。
狐が持ってくる手紙って、そんなに信憑性高いの!?
「朋哉さまの時は、託占をなさるおばあさまと同じ匣宮においででしたから、おそらく口頭でお伝えになったのでしょうね…… その前の、月哉さまの時も、葉月さまの時も……。……そう考えると何かを通して託占が伝えられたことって、近年にはないことなんですわ」
ぼそぼそと続く浩子さまの話に耳を傾けていると、やっぱりお腹が痛い気がして、布団に潜り込んだ。
「優月さまっ!? 青鷹さまが、頭領が『優月が来てから』と開封をお待ちなんですよ!?」
うるさい、と思ってしまうのは、今の僕が普通の体じゃないからだろうか。
青鷹さんがわざわざ、僕が同席するまで 見ないとまで言ってくれているのに。
「〜〜っ……静さん……」
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