龍のシカバネ、それに月
1
(これ、何なんだろう……)
布団の中から指先に摘まんだビー玉だけ を出して、日に透かして見る。
朋哉さんから北龍へ、預けられたビー 玉。
透明部分は水のようでぷくぷくと小さな気泡を上げている。
もっとも、球体だから『上』が決まっているわけじゃなくて、気泡は四方に散らばり、儚く消えて、また新しいのが現れる。
散らばって、また消える。
生まれる。
綺麗だ。
真ん中にある薄いピンクの塊は、綺麗な球体じゃない。
3ミリほどのそれの表面はぼこぼこしたこぶだらけで、ビー玉の向きによってくるくると位置が変わる。
それでも大抵は中心近くにあって、時おり、全体を震わすみたいにして揺れるのだ。
(この、真ん中にある奴はちょっと気持ち悪いと思う)
それにしても液体が入っているというのに、それは完璧な球体をしていて、例えばビーチボールにある空気を入れる口は存在しない。
それなのに、どこから気泡は現れているのだろう。
表面はすべすべの、本当にガラス玉のように冷たい。
(北龍は、これを見て何なのかわかるのか な)
おそらく、わかるのだろう。
わかるだろうから、朋哉さんは僕に北龍へ届けるように言った。
……なんで、僕に?
誰にも知られずっていうのは?狐が案内するって言ってたけど、華月子おばあさんには知られても良いってことだよね。
だったら始めから、おばあさんに言付ければ良いのに。
「って、いたたたた……」
慌てて手を布団に引っ込めた。
お腹が痛い。
絞られるみたいだ。
腰も痛い。
重石が乗ってるみたいにずっしりしてて、全身が気だるい。
痛くて吐きそうだ。
足音が聞こえて、顔半分だけ布団から覗かせた。
辛子色の和服を着た浩子さまが、膝をついて覗きこんでいるところだった。
「大丈夫ですか? 優月さま。湯たんぽをお持ちしました。あと、痛み止めですわね。白湯をお持ちしました。起きられますか?」
「はい、ありがとうございます。……すみません、浩子さまにこんなことを頼んで……他に言える人がいなくて」
あら構いませんわ、と白湯を湯飲みにいれて手渡してくれる。
痛み止めを口に放り込んで白湯で流し込んだ。
「生理痛は、女にしかわかりませんもの」
そうなのだ。
僕は初めての生理痛に、天地がひっくり返る思いをしている。
朋哉さんの手で完全に『匣姫の体』になって訪れたとつぜんの出血に、僕はパニックに陥った。
事前に教えてくれれば良いのにと、少々朋哉さんを恨みながら、頼れる相手は僕に生理用品をくれたことがある浩子さまだけだった。
(女にしか……)
僕は、女の人、じゃない。
男でもない。
『匣姫の体』は本当に、匣姫という生き物 以外の何者でもなくて。
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