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龍のシカバネ、それに月
7

 逃げをうつ僕の体を決して放そうとはしなかった。
 ようやく、朋哉さんの力が緩められた時、僕の体は汗みずくになっていて。

 時は夕刻近くになっていたようで、障子が夕焼け色に染まっていた。

「できたよ、優月。これで正真正銘の『匣姫の体』。ついでに秘薬も体の中に片づけておいたから」

 これで俺の匣姫としての引き継ぎも終わりかなぁ、と伸びをする朋哉さんの前で、ズボンの前を片づけながら、えっ? と思う。

(秘薬を体の中に片づけておいた!?)

 さっき、胸の肉の中から秘薬を出した朋哉さんの姿を思い出して、ぞっとする。
 あんなこと僕にはできない。

 表情から、僕が何を考えているのか読み取ったらしい朋哉さんはにこっと笑う。

「大丈夫。優月も次の匣姫に使おうと思うころには、俺がやってるぐらいのこと、できるようになってるから!」

 できるように……なりたくない! 
 ぞっと背筋を粟立たせていると「朋哉」と外から声がかかった。

 珠生さんの声だ。
 ちゃんと話が終わるころを計算できていて、すごいと思ってしまう。

「ああ。……ごめん、もうちょっとだけ待って」

 朋哉さんは障子の向こう側に座している珠生さんにそう返事をしてから、袂の中に手を入れ、ゆっくりと引き抜いた。
 今度は何が出てくるのかと、ちょっと退き気味の僕の手を捕まえて、その手の中のものをそっと置いた。

「何……」

 ふんわりと握らされた手を開くと、そこにビー玉みたいなガラスの玉があった。
 大きさもちょうど、ビー玉サイズだ。
 その中心に、薄赤い透明な何かが浮かんでいて、時折、小さく動いた。

「何これっ……」

「それ、影時に渡してくれない?」

「ほっ、北龍にっ!?」

 思わず出してしまった声に、朋哉さんが障子の向こう側に目をやりながら、し、と人差し指を口元に立てた。

 そういえばさっき、僕に頼みたいことがあると言っていた。
 これのことか。
 でも。

(これ、何だろう……)

「それを、できれば誰にも知られずに、影時に渡してほしいんだ」

「? はい、でも。北龍がどこにいるのか……」

 狐が出るさ、と朋哉さんはぼそりと言った。

「は?」

「ばばあが案内してくれるだろうよ」

 そう言って、朋哉さんは口元をにんまりと緩めた。
















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あきゅろす。
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