龍のシカバネ、それに月
4
まだ夢とうつつの半分半分のような朋哉さんが、時おり瞬きながら、ゆっくりと珠生さんに視線を移動させていった。
長い時をかけて、合わさった視線。
それでもまだぼんやりと珠生さんを見つめている、黒すぎる瞳。
目に写している人を、じっくりと吟味するかのように。
「……珠生……?」
色を失っていた唇がたどたどしく名前を呼んだ。
珠生さんは一瞬、目を見開いてから、嬉しそうに細く笑んだ。
「『おかえり、朋哉』」
朋哉さんは、ぎこちなく笑った……ように見えた。
その言葉が、二人の間では魔法の言葉であったかのように、朋哉さんの表情は急速に夢から覚めていく。
唇も頬も、色を取り戻し、柔らかく微笑する。
「……ただいま」
布団の隙間、二人の繋いだ指先にきゅっと力が入るのが見えた。
どちらからともなく、寄り添っていくような、そんな静かで穏やかな繋がり。
(なんか、良いな。お互いに『全部わかってる』って感じがする)
不思議だ。
珠生さんと朋哉さんは幼なじみだけど、離れていた時間も長かった。
それなのに、そんな間の時なんて一瞬で吹き飛ばしてしまう力が、この二人にはある。
それから数十分経って、朋哉さんが「お茶が飲みたい」と言うので、僕が急いで取りに行った。
台所でお茶をもらって帰ってきたら、肩から羽織をかけた朋哉さんが半身を起こして僕を見返してきた。
「もう、起きて大丈夫なんですか……?」
僕を見つめたまま、にんまり笑う朋哉さんは、ちゃんと朋哉さんだ。
「うん。早くお茶、ちょうだい、優月」
僕のこともわかってくれているんだと思うと、嬉しくて。
朋哉さんのそばに座って、お茶の入ったグラスを手渡しながら、鼻の奥が痛んだ。
じわりと浮かんでくる涙が止まらなくて。
「何泣いてんの? 大げさな」
「だって……死んでてもおかしくなかったんですよ?」
「助けてくれたじゃない。優月が」
灰爾さんも『優月が先の匣姫を救った』と言ってくれた同じ話だけど、僕にはまったく自覚がない。
首を横に振っていると、朋哉さんがぴしゃりと「鬱陶しい」と言い放った。
振るのはやめる。
冷えたグラスを持っていたひんやりとした片手が差し出されて、僕は誘われるまま、その手に触れた。
僕のほうは何も感じないけど、朋哉さんは手が合わさった瞬間、綺麗な眉根を潜めた。
「ほらね。伝わってくる。土に埋もれた水脈を見つけ出すみたいな、繊細で正確な動きで正しい道を見つけ出す、この力は神経質な、西龍の力……」
「西龍の力……?」
そう、と朋哉さんは頷く。
手を握ったまま。
「この体のどこに傷があって、どの道で匣の力を流せば良いか、一瞬で見極める西龍の力。それに匣宮の力が合わさった、優月にしかできない技術だよ。それが、俺を助けてくれた。ありがとう。よく成長してくれた」
「朋哉さんは、僕が西龍の……雪乃さまの子供だと知ってたんですか……?」
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