龍のシカバネ、それに月
3
「んんっ、あ、またっ……」
覚えのある熱と柔らかな締め付け。
それに、何だろう。
どこかもどかしくも思えてしまう粘液が、青鷹さんの口腔に絡みついていて。
(僕の、だ……)
できたばかりの裂目が潤した液体が、青鷹さんの舌を包んで、今度は僕自身をさいなんでくる。
「ひっ……あ……っ!……」
何度目かの吐精。
ゆっくりと僕を引き抜いて、唾液と白濁と愛液の混ざった口元を龍の舌が舐めている。
上気した目元とその仕草を見ていると、また下腹がうずいてくるようで。
(もうだめ。もう)
わざと見ないように視線を逸らした。
優しい手が、体を清めてくれるのをそのままにして。
僕は、もたもたと上衣を直していった。
「心配ないよ、優月。順調に『匣姫の体』になってる」
「……はい」
心配ないよ。
その言葉が、なんとなく居心地が悪い。
心配ないよ、の続きが、『どこに配置されても』に続いているような気がする。
それ以上聞くのが怖かった。
青鷹さんと離れた後、予定通り朋哉さんの部屋を訪ねた。
柊の赤い実が鮮やかな一枝がかざられた柱が見えて、開きかけの障子を覗いて、その場に硬直してしまった。
「朋哉、さん……!」
朋哉さんが、目を覚ましている。
まだ枕に頭をつけてはいるけれど、とろんとした目元を縁取るまつ毛が、気だるげに瞬いていた。
そのそばに、珠生さまがすわっている。
布団のはしっこ、丁度見えるか見えないかの場所で、朋哉さんの指先が珠生さんの手に触れているのがわかった。
「いつから、起きてるんですか?」
今朝からだよ、とこともなげに言ってから、珠生さんは僕の顔を覗きこんだ。
「なっ、何ですか!?」
「いや、赤いから。熱でもあるのかと思って。大丈夫なら良いんだけど。ほら、託占の前でもあるからね。気をつけないと」
託占の言葉の前に、僕の心にはまたひんやりとした凪が訪れた。
はい、と返事しながら、朋哉さんのそばに座す。
今は僕なんかのことより、朋哉さんのことだ。
『空の器』だと、紅騎さんと北龍が言っていたことが真実なら、目を覚ました朋哉さんは匣宮月哉ではなく、朋哉さん自身のはず。
「朝からずっとこんな感じで、ぼーっとしてるんだ」
珠生さんの話にうなずいてから、上掛けをそっと捲った。
いつもと同じに、寝間着の上から匣の力を入れようとしたんだけど。
それを、珠生さんが手で制した。
「どうして」
「もう、大丈夫だから。私はこういう朋哉を、過去に何度も見てる」
ぼんやりと、視点の定まらない朋哉さんを?
じゃあ、これからどうなるかも承知しているんだろうか?
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