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龍のシカバネ、それに月
3

 青鷹さんが唐突に聞いてくるのを、きょとんと受けてしまった。

「いえ……どうしてですか?」

「俺は、匣宮を、匣姫を殺そうとして優月を探していた」

 そんなの、と笑いが洩れた。

「昔のことでしょ? 青鷹さんは初めて会った時から、僕に優しかったです」

 そう言うと、照れたように目を逸らしていく。
 そういう顔も好きだな、と場にそぐわないことを思った。
 この人が僕の命を欲しいと言ったら……多分、それでも良いと思ってしまうだろう。

 僕の手を引き上げ立たせ、さて、と青鷹さんは皆退出してしまった板の間を見てから、僕に視線を戻らせた。

「どうする? 久賀の家にくるか、井葉の家に行くか。俺としては……」

 優月と二人でいたい、と言ってくれる青鷹さんの小さい声で綴られた続きが、僕の顔を紅潮させた。
 同時に胸が痛んだ。

(託占が来るまでの期間が、青鷹さんといられる最後の時間かもしれないんだ)

 もちろん、青鷹さんに配置されることを僕は望んでいるけど。
 四龍それぞれの話をふまえて、藍架さまじゃなくなった応龍が、僕をどこへ配置することを正しいとするかは、誰にもわからない。

「でも、多分ですけど……青鷹さん、井葉の家に行くことになるんじゃないですか?」

 今度は青鷹さんがきょとんとして「どうして」と返してくる。

 途端に、青鷹さんの携帯が鳴った。
 僕の想像は当たっていた。
 電話の相手は珠生さまだ。
 なんだか焦っているみたいな早口が、ちょっとだけ洩れて聞こえてくる。

(頭領が突然いなくなったんだから、大変に決まってるよね)

 話を終えて携帯を片付けた青鷹さんが、複雑な表情を浮かべている。

「優月の言う通りになった。今から井葉屋敷に行かないと」

 やっぱり、と思ったあと笑みが浮かんだ。
 そっと青鷹さんの手に触れる。

「良かった。一緒にいられますね」

 嬉しい、と言う僕の反面、青鷹さんは不満そうだった。

「一緒って、同じ屋根の下にいるだけじゃないか」

「それでも良いんです♪」

 行きましょう、と手を引くと青鷹さんは渋々みたいに笑ってくれた。









 井葉の家で与えてもらっている部屋で、ヒーターにあたりながら蜜柑を剥いていると、いつの間にか隣に、きつねのおばあさんが座っていた。

(び、吃驚した……いつの間に)

 僕が自分に気がついたことを知ると、座したまま深々と頭を下げた。

「改めてまして。匣宮華月子(かづこ)と申します。優月匣姫」

「……貴女も、『月』の名を?」

 ということは、この人も昔、匣姫だったんだろうか。
 華月子さんは「『おばあさん』で良い」と言いながら顔を上げた。


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