龍のシカバネ、それに月
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言葉が、出ない。
ただ、膝に置いた手のひらがしびれるようで。
──優月を思う心は、誰にも引けは取りません。
(そう言ってくれる人がいるだけで、生きていける気がする……)
言いすぎかもしれないけど。
東の告白をすべて聞き終わっても、青鷹さんや珠生さんを恐ろしいとは思わなかった。
元々、青鷹さんに守ってもらって生き長らえてきた命だ。
青鷹さんが欲しいと言うなら僕は……差し出すしても良いと思う。
「すべて、言っていただけましたかな。四龍方々」
きつねのおばあさんが、湯飲みをそっと置きながら、それぞれの几帳とその前に座する後継を見渡した。
(皆、あんまり変わらないな……)
長きにわたって秘してきたことを告白してきたというのに、皆、普段とそう変わりのないような表情をしている。
失った頭領の幻を造り、操り、たった一人で支えてきた西龍。
匣姫であった母親を奪われ力増幅の道具として扱われ、激しい憎しみを育てた北龍。
大きすぎる組織として生きてきたがゆえに、変革を遂行することができず、匣姫を道具として扱ってきた南龍。
北龍と同じに、匣姫との関係に苦しみ、匣宮を滅ぼそうとしていた東龍。
「おつらい話もあったろうが、真実を知らねば託占もできぬのでな」
おばあさんの言う『託占』という言葉に、びくりと肩が揺れた。
そうだ。
話は終わったんじゃない。
むしろ、これからだった。
「託占は、どのような方法で行われるのですか?」
青鷹さんの質問に、灰爾さんと紅騎さんも視線を集めた。
おばあさんはふ、と小さな息を洩らした。
「そなたらはわしが、占いか何かで匣姫配置を行っていると思っておるじゃろうが……実際には、わしはただの使い人なのじゃ」
使い人? いったい誰の……。
山吹の几帳のこちら側で固唾を飲んでいると、灰爾さんの声が「どなたのお使いなんです?」と問うた。
おばあさんはにんまり笑って僕のほうを見た……気がした。
「四龍の統括 応龍のお使いなんじゃよ」
『応龍』?
初めて聞く言葉に、じっとおばあさんを見つめてしまう。
(四龍の統括っていうことは、四龍の頭領より偉い人なんだよね)
でも、今までそれらしい人を見たことがない。
もし本当にいるなら、20年前も12年前も、それ以前の影時の母親だった匣姫がさらわれた時も、解決に動かなかったのはどうしてなんだろう。
「応龍は現世に肉体を持たれぬ。天にのみおられて、四龍を見守るのがその使命。匣宮には代々、応龍と話ができる人間が出る。つまり、今はわしじゃ。優月匣姫も年を取られたら、お声が聞こえるようになられるかもしれぬ」
「…………」
つまり、応龍は本当に神様の領域にいる龍なんだ。
そうか、と納得して体の力が抜けた。
「託占はわしが、つまり応龍と話ができる者が応龍の意思を問い……匣姫配置が決まる。しかし、この度は困ったことがあっての」
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