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龍のシカバネ、それに月
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 山吹の几帳を振り返る。
 本当ならそばに行って抱き締めてやりたい。
 月哉さまの死の真相を知らされたショックは計り知れない。

「……『もとの四龍に戻ってほしい』月哉はそれしか言わなかった。生きていたころも、魂となって朋哉に入った後も。『生まれた子たちが安心して生きていける世界であってほしい』……つまり、おまえのことだよ、優月。月哉は本当に、おまえのことばかりだった。おまえのためになら、北龍に匣の力を貸しても良いとまで……」

「それも、騙したのですね。月哉さまのことも、朋哉のことも。あれほど『朋哉』でいたかった朋哉を『月哉』と呼び、力を出させた。皮肉にも朋哉が願った『四龍と匣宮を消す』協力を、朋哉自身が貴方にしていたことになる……お恨み致します」

 影時が返事をせず、老婆が黙ったままだったのを、話を続けて良いと解釈したらしい珠生さまは続けた。

「私は、幼かった青鷹が四龍と匣宮に絶望しているのを知っていた。私に近い気持ちを持った少年。青鷹は父親である義青と同じように、上位へ行くことを望んでいなかったので、説得が大変でしたがね。どうにか、私に仕えてくれるようになりました。そうして私は青鷹とも約束を交わした……」

 思いだそうとすれば、いつでも思い出せる。
 13才だった俺は、珠生さまが言うように希望を失っていた。
 珠生さまに仕えることの決まった俺は、幾度となく珠生さまと話した。

――青鷹。龍はなぜここに在るのだろう?
――在る理由なきものは、滅ぶべきだよね。
―― 青鷹。私を手伝え。
――匣宮の、生き残りを探しだしてきて。


 在る理由なきものは、滅ぶべきだから。


 匣宮の生き残りを探しだし、抹殺しても良いとの下知だった。
 俺は一にもなく頷くと、どの一族より先に匣宮の生き残りを探し出すと決意した。
 無論、抹殺するために。

―― ……約束をしよう、青鷹。いずれ、私かおまえかのどちらかが必ず──……。





――どちらかが必ず、四龍と匣宮を滅ぼそう。





 荒唐無稽にも感じるこの約束を胸に、珠生さまと俺は、その後の時間を生きた。

 俺の使命は呪詛を受けた時いなかった月哉さまを探すこと。
 当時、月哉さまの死を確実に知っている者は誰もいなかった。
 あえて言うなら、時折作られた幻の体に入る雪乃さまの魂と、桜子さん、北龍 影時。

(灰爾……は、知っていたのだろうか)

 知っていたに違いない。
 雪乃さまに頼まれた、幻を作るということを忠実に守っていたのだから。

「俺は、匣宮の生き残りを探した。月哉さまのことを。しかし……」

 影時がじっとこっちを見ている。
 視線を押し返すように、影時を見た。

「月哉さまはすでに亡くなられていた。影時殿の手によって。その頃はおそらく、朋哉さまが月哉さまに体を支配されて、影時殿の側にいらしたのでしょう。俺は、匣宮の血を引く子を探した」

 いずれ、朋哉さまも、月哉さまの子も抹殺するために。
 話しながら一点にだけ、目をやることができなかった。
 山吹の描かれた黄色い几帳。

(優月)

 裏切りだと思うだろうか。

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