龍のシカバネ、それに月
8
キラキラと、夜の闇に雷のような光を散らして揺らめいていた糸たち。
あれはハコを奪おうと襲撃に来た西龍たちを撃退する東龍の姿だったのか。
久賀さんの怪我もそれが理由なのか。
うん、と頷きながら、胸がしくしく痛むのを感じていた。
どうしてだろう。わからないでいたことを、久賀さんはようやく教えてくれているのに。
「蒼河さんは、今夜襲ってきたという、南の龍なんですか?」
「違う。蒼河はうちの……東龍の一族だ」
「だったら、どうして蒼河さんは久賀さんの邪魔を?」
「優月。もういい」
僕の質問を千切るようにして、久賀さんは椅子から立ち上がった。
僕の目を見ないまま、ひょいと横抱きにしてベッドに運ぶ。
柔らかい感触を背中に感じていると、隣に久賀さんが入ってきた。
「もう、休もう」
もう少し聞きたい。
僕の知らないことを全部教えてもらって、安心したい。
僕がこのまま、久賀さんのそばにいられるかどうか──
(……? それはどうでも良くない……?)
元々、朝陽に学校を続けさせてやりたくて頼っただけなのに、どうして久賀さんのそばにいられるかどうかなんて。
どうして僕は、この人のそばにいたいと必死で思ってしまうんだろう。
「あの。じゃあ僕、自分の部屋に戻ります」
色々教えて下さってありがとうございました、と付けてベッドから降りようとすると背後から抱き込まれた。
「久賀さんっ……?」
「こうして寝たい」
抱き込まれたまま上掛けを引き上げて。
「こうして……って言われても」
まさかまた薬を!? と変な汗が出そうになって、気づいた。
久賀さんは僕の首筋に鼻先を埋めるようにして、規則正しい呼吸音を立てている。
(もう、寝たのかな。めちゃくちゃ早……)
顔が、熱い。
多分、赤くなっている。
心臓の鼓動が速い。
抱かれたまま寝るなんて……眠れるわけない。
それは多分、色んなことを聞いてしまったせいでもあって。
久賀さんは、最初からずっと僕に優しかった。
でもそれは全部、東龍の一族のため、井葉さんに引き渡すため。
僕個人と、久賀さんの優しさとは何の関係もない。
それでもそのおかげで朝陽と僕は生きていけて。
それでも僕は……同じことを別の誰かにしてもらっても、従いてきたかどうか、わからない。
体を反転させて、久賀さんの腕に抱かれたまま彼の顔を振り返る。
無防備な顔をして眠っている頬に、そっと触れた。
「久賀さんじゃなかったら、僕はここに来なかった……」
眠っている人の胸元に顔を埋めるのはフェアじゃない気もするけど。
もそもそ動いて、寝間着の胸に額をつける。
とくとくと、心臓の音を感じる。
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