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龍のシカバネ、それに月
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「月哉さまの先の匣姫は、北に配された。北で龍の子、影時を産んだあとの匣姫をさらい、南龍はわが一族のものとし、“皆で龍の力を分けた”……」

 紅騎さんが淡々と語る話に、ぶるっと背筋が粟だった。

 嫌なのに、思い出してしまう。
 僕の体に触れる冷たい指先。
 淡々と語る、冷たい口調。

──昔はね、実際にそういう扱いを受けた匣姫がいたんだって話だよ。
 匣姫と体を繋げる小屋があってね。
 力の欲しい龍はそこで匣姫と寝るんだよ。
 そしたら、匣姫もそれに応えて龍の子を孕むんだ。
 どの龍の子かわからない、純粋なる四龍の子だよ。
 それが一番四龍の繁栄に繋がる匣姫の生き方だな。

 亡霊に取りつかれたように語った、蒼河さんの恐ろしい昔話。
 
(あれは、本当にあった話だったんだ。それも、昔といってもごく最近に)

「それが許されていた黒い時代が確かにあった。だが、とうの昔に禁じられたはず。南はそれを知った上で匣姫をさらい、隠し、一族のものとして“使った”」

 おばあさんの落ち着いた声色に、紅騎さんは視線を俯かせた。

「それは事実なんだろうけど。昔の話でしょ? 南だって、十分報復を受けたと思うけど」

 一度足元を流した視線が、北龍の顔に向けられる。
 何も返さない影時に、紅騎さんのほうが淡々と話を続けていく。

「北龍は南を憎み、先代と、匣姫に関係した者たちを闇の刃で殺した。死を懇願する匣姫──自らの母親を殺し、母を奪われた力弱い父親も殺した。
 ……そこまでは南に残された書で知った。南においてもこの話はデリケートなもので、なかなか子供に教えてくれる龍はいなかったものでね。詳細が違っていたら申し訳ない」

「それだけで、済むわけがなかろう」

 話の激しさに、僕の体は小刻みに震えていた。

(これは……北龍が三龍と対峙することになってしまった原因だ)

 母親が匣姫で、さらわれ、蹂躙された。
 蒼河さんの話のように、どの龍の子かわからない子を産まされ続けた。

「──っ……」

 震えが止まらない。
 こんなことってあるだろうか。
 三龍の滅亡を祈る北龍自身も、匣姫を奪われた“残された者”だったなんて。

(蒼河さんが言う話は本当だった)

 自分の身内が犠牲として使われる恐ろしさは僕も嫌というほど知っている。
 南龍の首謀者を殺す──僕に龍の力があるとして、それだけで済むだろうか。
 僕がもし、龍の力を持っているとしたら……

「匣姫と、匣姫を配置する匣宮と四龍のすべてを壊す。それが、今の北龍だ」

 次代の匣姫 月哉を奪い合い、配置先であった西の頭領 風祭雪乃を手にかけた。
 次々代の匣姫 朋哉をさらい、匣宮そのものを呪詛で潰した。
 残る復讐は、僕という匣姫を殺し、三龍と、自ら自身を滅することのみ。

「変わる気はないか」

 唐突に口を開いたおばあさんは、南と北の両方に視線をやった。
 紅騎さんは無表情に「仰せのままに」と答えた。


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