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龍のシカバネ、それに月
3

「…………。都合の良い理屈だな。裏では力技でことを動かそうとする者ばかりだというのに。だが」

 俺もそれは同じかと薄い嗤いを浮かべて、紅騎さんの服から手を放した。
 それを見止め、おばあさんがじっと紅騎さんのほうを見つめた。

「南の後継。そなたはどうじゃ。いかなる理由で匣姫を欲す?」

「なぜ匣姫が欲しいか? 決まっている。一族の繁栄のためだ」

 紅騎さんの主張はいつも変わることがない。
 すべては南龍のため。
 生まれた時から、そのためだけに生きていると言わんばかりに、その主張だけを口にしてきた。

(でも、それが『本当』に聞こえないのは僕だけなんだろうか)

 紅騎さんはいつも表情がない。
 いや、“表情がない”のではなくて、何か別の、本心を隠したいからのような気がして仕方がない。
 それが何なのかは、わからないけど。
 
 おばあさんは話す紅騎さんをじっと見つめ、時に景時を振り返った。
 何か言いたげな顔をしている影時だが、実際に言葉を紡ぐことはなかった。
 おばあさんが小さく息を吐くのが見えた。

「保村朱李、紅騎。そなたらに言っておく」

 赤い几帳の向こうで、朱李さまの肩がびくりとうごくのが見えた。
 紅騎さんの態度は変わらないままだ。
 いったい何を言うのだろう。
 おばあさんは厳しい顔つきで、赤の席を凝視した。

「『時は過ぎた』のだということを、理解せよ」

 几帳の裏で、朱李さまが伏したのが分かった。
 それを見ている影時が、握った拳を震わせているのも。

(『時は過ぎた』ってどういうことだろう……)

 言葉通りの意味だけじゃないってことは、わかるけど。
 平然と視線を押し返す紅騎さんに、おばあさんは続けた。

「『匣姫を皆で分ける時代』はとうに過ぎたということじゃ。南龍先代頭領がしたことは、罪であったことを、匣宮はここに公言する」

 南龍先代? と背後で静さんが呟く。

「どこまで話を遡るんでしょうか。南龍の先代頭領というと、紅騎さまのお爺様に当たる代でしょう? 朱李さまは茜さまの婿養子に入られているのですから、直接に父と当たるわけでもありませんし」

 ここにいる二人に言っても無意味じゃありませんか? と続いた。
 何も知らない僕にとって、静さんが言ってくれることは本当に役に立つ。
 匣宮の言う『南龍の罪』が先代で起こったことなのであれば、当時の頭領を追及すべき話だろう。

 几帳の裏で平伏し、体を震わせる朱李さまの様子を知ってか知らずか、紅騎さんは頭を下げることもないまま、おばあさんを見返した。

「南は過去数代に渡って、匣姫の配置先には指名されなかった。匣姫は繁栄のために在る。匣姫をいただけない一族は、その未来に影を落とす。先代頭領は、それを見過ごせなかっただけだ」

「だから……母をさらったというのか?」

 唐突に口を開いた景時が、言葉尻を震わせて言ったのを、驚いて見返した。
 初めて、北龍の言葉を聞いた気がして。

(北龍 影時の母親を、先代南龍頭領が、さらった?)

 匣姫をさらう。
 影時自身が、朋哉さんをさらった行動に重なってしまう。


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