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龍のシカバネ、それに月
6

 ただ、ひたすらに。
 愛しい人の面影を求めて。

 そうして。
 そうして、恋情にかられた愚かな男は、羽衣を追い求めやがて──
やがて、自らの手で、何よりも守らなければならなかった西龍を滅ぼしてしまったのだ。

 ただ一人の幼子だけを遺して……。



「雪乃さまが、幻……?」

 誰の呟きだったか、誰も気にしなかった。
 誰かの呟きは、その場にいた全員の心にあったものだったから。

 事実を暴いた北龍 影時以外は自らの時を止めたように、白い几帳の影に座する『創られた西の頭領』を見つめた。
 白い面差しに口元を見せないための扇子。
 控えめな印象を持たせる扇子は喉元の傷口を、幻影となった今も気にしてか。

 雪乃さまはちらと影時を見上げた。

「貴方も、私を幻影だと知りながら茶番につきあってこられたのでしょう。暴くならもっと早くにできたはず。貴方がそうしなかったのは――」

 ついと視線が向けられた。薄い黄色の山吹の几帳。
 僕のほうに。

「優月さまを気にかけてのことでしょう? 優月さまが、月哉さまの子であられたから。目的のためなら、月哉さまも優月さまも亡き者にするのが早かったのに、貴方はそうできなかった。優月さまが、月哉さまの子だったから。
 ……例え、半分は私の血を引いていようと」

「――っ……!?」

 僕は、匣宮月哉の子。
 そして、西龍頭領 風祭雪乃さまの子……。

 力が抜けるのを、後ろから静さんが、支えてくれた。

(北龍の子供じゃなかった? どっちの言ってることが本当?)

ふいに、山吹の几帳を、こっちを見ている目に気がついた。
影時が僕を見ていた。

「安心したか? 逆賊の子じゃないとわかって」

軽い笑い声に、何も返せなかった。
影時はなぜ、僕を我が子だなんて言ったりしたんだろう。
北龍側に匣姫が欲しかっただけ?
それとも……。

 うっすらとした煙のように心を覆っていた不安が、晴れていくような、わだかまりの残ったような。
 そんな曖昧な気持ちがまだ不安を抱かせる。

これまで、白い几帳の裏で長くつらい過去を語ってくれていた雪乃さまが言葉を続けた。

「その後、灰爾は帰還した“西の頭領”を作り、残った桜子は月哉さまを連れて逃げた。茜さまとの会話が成り立っていなかったのは申し訳なかった。私は幻……でしたのでな……」

 それから8年。
 12年前の事件。
 次の匣姫、朋哉さんが連れて行かれた時も、西は滅びに瀕した。
 残り、二人になったと聞いていたけど、その実は、

(灰爾さん、1人だったんだ……)

――西龍はあの部屋に2人きりだけどね。優月ちゃんは、俺と気が合うと思うよ?

 二人きり。
 あの時は、聞きながしてしまっていた。
 あの言葉を言った灰爾さんは、雪乃さまをカウントしていなかった。

――月哉さんの好きだった相手が誰か、俺にはわかるよ。

 知っていたんだ。
 すべてを。


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