龍のシカバネ、それに月 4 雨だか涙だかわからない、濡れた顔を私に向けて「助けて」と懇願する。 「助けて、雪乃。雪乃の子供がいるのに……っ」 近づこうとすると、影時は月哉の腹に、光の滲んだ手のひらを向けた。 「よせ! 影時、月哉の声が聞こえないのか! おまえがやっていることは無差別虐殺だ!」 雨のカーテンで見えにくい景色からは、東西南北関係なく、煙が上がっている。 その下ではどこでも同じような悲劇が繰り広げられている。 影時はそれらの景色に一瞬目を向けてから、「そうかもな」と言った。 「かげと…き、助けて……やめて……」 か細い声で命ごいをする月哉に、影時は容赦なく力を放った。 「月哉!」 「大丈夫……これで月哉サマは怖いものは何もなくなる……愛しい者が誰かも……今はな……」 「影時、貴様……っ!……」 影が、私に巻きついてきて、まるで泥に沈んでいくような恐ろしい感覚が襲ってきた。 目の前で、愛しい人が踏みにじられ、助けを乞うているのに何もできない。 影時に貫かれる月哉の顔が、ぼんやりと焦点を失い始めた。 目元はほんのりと赤く染まり、口元が小さく開いて行く。 自らを差し出すかのように腰を揺らして、甘えるように影時にすがった。 「あん、あっ、……んんっ…は、もっと……」 鼻にかかった甘い声。 ざあ、と地を打つ雨音に混じって、それでも粘度のある水音が混じって聞こえてくる。 影時に内壁を擦られて、たまらないと言いたげに首を振っていた。 「『月哉の声が聞こえないのか』? ……聞こえてるさ。なぁ、匣姫さま……よがって、喘いで、ねだってるのが、この雨の中でもよく聞こえてるさ……」 「影時! バカな真似はよせ!」 影に囚われた私も、桜子も目を背けることもできなかった。 「なぁ、桜子。おまえは見てないか? 先の匣姫も『やめてくれ』と懇願しただろう? 泣き叫びながら数多の南龍を飲み込まされた……そうだろう? 桜子サマ……?」 隣で、ぐっと言葉につまった桜子が影時を睨みつけている。 「だったら、南龍にぶつけてこれば良いだろう。卑怯もの! 月哉は無関係じゃないの!」 桜子が叫ぶ間も、影時は絶え間なく月哉を犯した。 心を封じられている月哉は、快楽を貪る人形ででもあるかのように、影時にすりより腰を振って応えた。 納まりきらない白濁が、月哉の浅い尻の谷間をぬって泥に流れていく筋がわかる。 だが、それらは泥に溜まることもなく、ざあざあと煩い雨に押し流されていった。 ちらと見える結合部は赤く腫れ、血と白濁の混じった細かな泡にまみれている。 痛みも封じられているのか、それでもなお月哉は影時を求めた。 自ら影時の腰に跨がり、体を密着させ、体の重みで飲み込む影時の質量に歓喜の声を上げる。 「ああっ……すごい、きもちい……」 影時もまた、月哉に愛された者のように細い腰に腕を回し、小さな赤い唇を貪った。 (見て、いられない) [*前へ][次へ#] [戻る] |