龍のシカバネ、それに月
5
低い声で、意味のあるようなないような言葉を吐く。
知るか。
なんだよ、それ。
龍って何だよ、誇りって何だよ。
母さんが亡くなって、俺と優月は久賀と2度目の『初対面』を果たした。
だんだんと消えていく母さんの術。
その代わりに俺は、消されたはずの過去を思い出していく。
龍のこと、匣宮のこと、母さんのこと、優月のこと……。
「朝陽? どうしたの、黙りこくって。お腹すいた?」
どんぐり目で見上げてくる優月の成長も、止める人はもういない。
背も、あの頃に比べれば、多分、ほんのちょっとは伸びたかもしれない。
「……なんでだよ。俺だって考えごとぐらいあるっつーの」
優月の髪をくしゃくしゃ撫でる。
細い髪が指を通る感触が心地良い。
先の匣姫が優月を指導したとか、それ以来、優月の匂いはほとんど感知できなくなった。
……きっと優月も、母さんが封じていた記憶が蘇ってくる。
その時優月は何を思うだろう?
小さかったあの時と同じに、「青鷹さんを信じたい」と、馬鹿の一つ覚えみたいに言うんだろうか。
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