龍のシカバネ、それに月
4
初めて聞く、母さんの悲鳴。
血を吐くような独白。
成長しなければいい?
だから優月はいつまでも小さいんだろうか。
成長を止めることなんてできるのか?
優月と父さんの死には、何か関わりがあるのか?
久賀は優月の体に突っ伏した母さんを起こして、目を合わせた。
「落ちついて下さい、桜子さま。貴女はたった1人でよくやっておられる。俺は、今からどんな時でも、必ず貴女がたを選びます」
「『選ぶ』……?」
呆然と久賀を見上げる母さんのオウム返しに、久賀は頷いた。
「桜子さまと優月さまの意志を、東龍と碧生さまの命令より優先させるということです」
母さんは信じられないと呟いて首を横に振った。
「だって貴方は東龍で……私は南龍にも見捨てられていて……どうして貴方が私たちを選ぶの……」
「龍だからです、桜子さま」
「『龍だから』……?」
そうです、と久賀は頷いた。
「龍は匣宮に忠実。そうでしょう?」
「……あ…」
ありがとう、と言ったように聞こえた。
思えば久賀は、この時から優月に心を持って行かれていたんじゃないか。
久賀だけじゃない。
母さんも、俺も。
龍は皆、匣姫にとらわれる存在だ。
布団から起きた俺は、いきなり母さんの手を翳されて、記憶を操作された。
起き抜けから、久賀を旧知の友人だと紹介され、一緒に暮らすことになった。
1DKの部屋に親子3人と若い男が1人。
近所にどう噂されても、母さんは不思議と、前より元気そうに見えた。
それから少し経って、優月はちょっとだけ背が伸びた。
ちょっとだけだってのにすごく喜んでいる優月から、甘い匂いがするのに気づいた時から、俺はおかしくなってしまったのかもしれない。
こんなに優月に触れたい衝動にかられる匂いだというのに、学校で一緒なヤツらも、母さんも久賀も、まったく気がついていないみたいだった。
「んんっ…ふ…、う…」
甘えたような声と匂いに誘われて、眠る優月のこめかみにキスを落とす。
けなげに固くなったピンク色の尖りを抜けて、肌触りの良い下腹に手を伸ばした。
パジャマのズボンに指が触れて。
そっと肌を押しこんだところで、手首を取られた。
「久賀……」
後ろ暗いことをしている自覚はあった。
久賀に知られて、恥ずかしい気持ちと、反発する気持ちとないまぜになって、どうして良いか、自分でもわからなかった。
暗がりで横になったまま、久賀が黒い目でじっと見つめてくる。
「龍の誇りを忘れるな」
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