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龍のシカバネ、それに月
1

 3日ほど続いた熱は全身の痛覚を刺激してから、大量の汗をかかせて、嵐のように通りすぎていった。

「――っ!」

 悪夢を見て目覚めた時、青鷹さんは必ずそばにいてくれて。
 大きなひんやりした手で額を撫でてくれた。
 そのさらさらした手に触れていると、許されることの痛みが、胸にしくしくとしこりを作るようで。
 ありがたいと思うことのはずなのに、罪の重さが僕を苛んだ。

『優月が望んで蒼河に抱かれたわけじゃない』青鷹さんはそう思っているみたいで。
 確かに、そうなんだけど。

「……っ……っ……」

 悪夢を見た恐怖で荒くなった息を整える。
 寝間着の胸が激しく上下して、汗が滲んだ。

 僕には、蒼河さんを恨む気持ちがまるでない。
 酷いことをされた自覚はあるけれど、それ以上に憐憫の情が湧いてくる。
 何より、蒼河さんは死んでしまったのだ。

「…………っ……」

 龍の苦しみを受け止めるのは匣姫の本能でもあるかのように、すんなりと蒼河さんを許していた。
 それが同時に、青鷹さんに対する罪のように思えて考えると胸が痛んだ 。

 熱が下がると、すぐに布団をあげてもらった。
 横になってばかりいるから、こんなことを考えてしまうんだ。

 井葉の家にいると青鷹さんが様子を見にきてしまうから、できるだけ部屋にいないようにして。
 庭の池のそばにしゃがんでいたら、水面に怒った顔の青鷹さんが映っていて飛び上がるほど驚いた。

 それからまた3日ほど経って、体調が整ったと言い張る僕に、知らせは来た。
 会談の――匣姫の配置先を決める会談の知らせ。

 ごくりと喉が鳴る。

(とうとう配置先が決まるんだ )

 幾つかのスーツの中から、浩子さまと静さんがああでもないこうでもないと選んでくれたものを身につけて、いつもの場所に、井葉屋敷の地下にあるもう1つの屋敷に向かった。
 玄関で靴をぬいでいると、足元がふっと陰った。

「おや。風邪をひいているとお聞きしておりましたが。休んでおられなくて良いのですか?」

「雪乃さま」

 にっこり笑って、綺麗な髪を耳にかける仕草を見せる。
 普通の動きなのに、ちょっと驚いた。

(雪乃さまは、ちゃんと生きてる)

――雪乃を殺して……

 北龍の言葉が頭を行き来するのを、頭を横に振って追い払った。
 目の前にいるのだ。
 殺したなどと、物騒な偽り。
 茜さまだって、帰ってきた雪乃さまを見て話しているのだから、あんな戯れ言は全部引っくるめて北龍のでまかせだ。

(僕がっ……北龍の子だなんていうのも全部全部っ……)

「お元気そうで、何よりです」

「は、はい。ありがとうございます……雪乃さまも……」

 たたきに足を乗せながら、ふと見上げた雪乃さまがまるで――透き通っているみたいに、白く見えて。

(えっ)


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あきゅろす。
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