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龍のシカバネ、それに月
4

 聞いただけで胸が甘く痛んで、今すぐにもすがりつきたくなっているのが、自分でわかるから。

「優月」

 僕の名前を呼ぶ声の主が、手のひらで額に触れる。
 熱の具合を見てくれているのか、ひんやりとした温度が心地良い。
 額から離れた指が、こめかみに落ちた涙を拭った。

 そっとした動きで、何度も何度も。
 いつも僕を、大切な宝物のように扱ってくれる手が嬉しくて、もっと泣けてしまった。

「優月。狸寝入りはバレてるぞ」

 そう言った青鷹さんの言葉が可笑しくて。
 寝ているふりをしているのに、涙を流しているのに、口元が緩んでしまった。

 ゆっくりとまぶたを開けると、まつげに残った小さな小さな涙粒が、日の光をきらきらと反射させた。
 朝露の中にいるみたいな青鷹さんは、柔らかく微笑を浮かべていた。

「一人になって考えて、何かわかった?」

「えっ……」

 そうだった。
 青鷹さんとは『一人になって考えたいことがある』と言って、久賀の家を出てきたのだった。

 青鷹さんの手が、額から髪をすくように撫でてくれる。
 熱を持った体に空気が通るようで気持ち良い。

 その冷気が、僕の心を落ちつけてくれる。
 ついさっきまで、青鷹さんには会えないとそればっかり思っていたのに。

「優月に触れたい。良いか?」

 そんなこと、今まで聞いたことなかったくせに。
 どうして今日は聞くんだろう? 

 頷くとすぐに青鷹さんの顔が近づいて。
 唇の端と、耳元、首筋に軽いキスをくれた。
 そのまま、首筋に顔を埋めたまま、僕の体をきゅっと抱きしめた。

(“わかる”のかもしれない)

 僕自身はわからない僕の“匂い”を龍はかぎ分ける。
「西の秘薬の匂いがする」と、青鷹さんも蒼河さんも言っていた。
 だったら“わかる”のかもしれない。
 僕に触れて、体を繋げた蒼河さんのことも。

「……わかったこと、ありましたよ。『匣姫の体』が何なのか、わかりました」

 抱きしめてくれたまま、青鷹さんは「そうか」とだけ言った。

「父さんは、匣宮月哉は『匣姫の体』だったんです。北龍は雪乃さまを殺した後、父さんの体を開いて、僕ができたんです」

「……優月? 何を言ってる? 雪乃さまは生きておられる。優月が、北龍の子?」

 抱きしめていた腕を緩めて、ゆっくりと布団に戻してくれる。
「可哀想に、熱で混乱してるんだな」と言いながら時間をかけて離されながら、抱いてもらえるのはこれが最後かな、と思った。

 いつか「南は、東と違って匣姫の処女性など気にしない」って朱李さまが言っていた。
 青鷹さんは気にするってことだ。
 知ってるけど……嫌われたくない……。

「蒼河と志貴子さんの遺体に、会ってきた」

「……『遺体』?」

 嘘。


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