龍のシカバネ、それに月
3
はっきりした答は聞くのが怖い気もするけど。
目が、じっと浩子さまの後ろ姿を見ていたのかもしれない。
静さんのきょとんとした目と視線がぶつかった。
「浩子さまが、どうかなさいました?」
「えっ、ううん。何でもないです!」
慌てて言うと、静さんはほっとしたような顔をしてから笑った。
「今日は良かったです。優月さまが気がつかれて。青鷹さまもほっとなさると思いますよ」
「青鷹、さん……」
早くほっとさせてあげたいですね、という静さんの声がどこか遠い。
僕は、蒼河さんに体を開き、その上――
―― 雪乃を殺し、桜子が見ている前で、何度も月哉を犯した。
(僕は、北龍の子供かもしれない)
青鷹さんが敵対する北龍の。
父さんが、北龍に蹂躙されてできた子供。
(どんな顔をして、青鷹さんには会えば)
上掛けをがばっと引っ張って頭からかぶってしまう。
会えない。
青鷹さんが来ても、あわせる顔がない。
「優月さまー? まだどこか痛かったりするんですか?」
静さんの間延びした声に、「少し寝ますから」とだけ答えて顔は出さずにおいた。
かちゃかちゃと茶器を触る音がする。
その音が小さくなって、遠ざかっていった。
部屋に誰も、いなくなった。
ようやくほっと息ができる気がして、布団の中で円くなった手足を抱いた。
(まだ、体が痛い。どこもかしこも)
軋むような痛みと下腹に鈍痛がある。
誰かと体を繋げたのは初めてだ。
こんな痛みが伴うと思うこともなかった。
青鷹さんが触れてくる手は、いつも優しかったから。
人と龍と、どこか違いがあったのかさえわからない。
龍と繋がりを持ってしまったのが、四龍や匣宮に影響があるのかどうかも判断できない。
体が痛くて、頭がパンクしそうだ。
(蒼河さん)
匣姫を求めて死んだ色名龍を父に、その男を求め続けて匣姫を憎んだ母を持つ子。
相反する2つの思想に挟まれて、苦しんで苦しんだ果てに、匣姫に、僕に、手をかけた。
蒼河さんが口にした、ひとことひとことが頭にこびりついて離れない。
背中に突きたった小刀。
志貴子さんの手が握りしめた小刀。
――匣姫は諦めて下さいと、何度もお願いしましたのに……蒼治さま……。
(志貴子さんには、蒼河さんが蒼治さんに見えていたんだ。ずっと)
一番近くにいるはずの母親が、息子を息子として見ていなかった。
可哀想だと、僕が思うのは滑稽だろうか。
瞑ったままのまぶたが熱く濡れた。
何を哀れと思って泣いているのか、自分でももはやわからなくなっていた。
――優月。
誰かの声。
そっと布団をめくられた感覚があったけれど、僕は目を開けなかった。
声が誰のものか、わかるから。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!