[携帯モード] [URL送信]

龍のシカバネ、それに月
10

「何度か桜子に会いに行ったある時、桜子に泣かれた日がありました。信じられますか? 姉妹として19年もそばにいたのに、泣いてるあの子を見たのは初めてでした。
貴方もおいででした。3つくらいだったでしょうか。桜子は泣きながら『月哉さまが亡くなられた』と」

「父さんが……。父さんはどうして亡くなったと……?」

 茜さまは首を横に振った。

「存じません。桜子は言わなくて、私は聞けなかった。住んでいる場所だって、南龍としては聞き出すべきだったのだろうけど……だめですね……」

 姉妹としての情が、問うことをためらわせたのだろうか。
 そう、だろうか。

「違うね。あんたは、『南龍のために、聞き出さなかった』んだよ」

「……朝陽?」

 今まで会話に入らず、母さんの部屋をごそごそと触っていた朝陽が唐突に割って入ってきた。

 茜さまが『南龍のために聞き出さなかった』って……? 
 茜さまは睨みつけるように朝陽を見返した。

「桜子が出て行った後の南龍は、雪乃さまが記憶になかったことによって、匣姫をさらったことによるバッシングを受けた。贖罪は月哉を取り戻し、桜子を断罪することのみ。
 罪を認めない南龍としては、桜子を断罪する意味がなかったし、月哉を取り戻す必要もなかった。桜子の手の内にあるうちは、匣姫は南龍にあると考えていたからだ」

 静かな口調だけど、怒りが滲んでいる。
 朝陽のこんな怒り方、初めて見た。

「朝陽、もうやめて」

 言いたいことは、わかる気がした。
 朝陽の怒りも、痛いほど。

 でも言っちゃだめだ。
 朝陽はこれからも、南龍としてここで生きて行くのに。

「だからといって、南龍は桜子を守ることもしなかった。桜子を守ることは、南が三龍の裏切り者を匿うことになるからだ。
 要するに南龍一族が取った行動は、どっちつかずの蝙蝠(こうもり)……『南の保身』だったんだよ。
見て見ぬふりをして、保村桜子を切り捨てていたんだよ! 姉と慕って会い、月哉の死因も住んでる場所も迷惑になると思って言えなかった、せめて姉の顔が見たかった母さんを、あんたらは見捨てたんだろ!」

「朝陽っ……」

「何が『匣姫護衛として、優月に朝緋をつけた』だよ! それで桜子に黙ってろと言いたかっただけだろ!? 
会談であんた、桜子の無実を話したかったんだってな。笑わせんな、今さら。妹を切り捨てた罪の意識に苛まれでもしたのか?」

 言っちゃだめだ……さっき浮かんだばかりの言葉が薄れていく。
 朝陽の叫びが、心に痛む。

(…………)

 想像は、ついていた気がする。
 父さんがいた頃はわからないけど、僕が知る限り、母さんはいつも1人きりだった。
 見たことはないけどおそらく、『匣姫』を追う龍たちと1人で対峙していた。

 青鷹さんがくるまでは。

「何が『匣姫護衛として、優月に朝緋をつけた』だよ! それで桜子に黙ってろと言いたかっただけだろ!?  会談であんた、桜子の無実を話したかったんだってな。笑わせんな、今さら。妹を切り捨てた罪の意識に苛まれでもしたのか?」


[*前へ][次へ#]

10/16ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!