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龍のシカバネ、それに月
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 ……母さんの、桜の部屋にいるせいだろうか。
 茜さまは武器だらけの部屋を見渡して、息をついた。

「だからでしょうか。父のロマンチシズムは桜子の分まで回らなかったようで。戦うことばっかり考えてるみたいでしたわ、あの子。桜子が南龍後継になっても、誰も文句は言わなかったでしょうね」

「女性は後継にはなれないのですか?」

「そんなことはありません。実際に桜子を、という声が上がったこともございました。朱李も同意してたし、紅騎も小さかったし。でもあの子『他にやることがあるから』と辞退して……もしかしたら、影時が月哉さまを狙ってくるかもしれないと、その時から考えていたのかもしれません」

『他にやることがある』……。
 幼なじみだった影時の動きを、母さんや雪乃さまは勘ぐっていたのだろうか。
 だから、女だてらにこれほどの武器をそろえて?

「おかしな子でした。小さい時から武器ばっかり集めて。幼なじみが男の子ばかりだと、ものすごく馴染むか、ものすごく女の子っぽくなるかのどっちかしかないのでしょうか……」

(父さんを守るためにそろえたってわけじゃなくて、昔から武器集めが趣味の女の子だったんだ)

 なんとなく想像ができる気がして、笑いが洩れた。
 茜さまも「ヘンな子ですよね」とまた笑った。

「でも、その趣味も無駄にはなりませんでしたね。桜子は影時から月哉さまを守った。不思議なのは雪乃……さま、です……」

 雪乃さまの名前を口にしながら、茜さまは眉間にしわをひそめて息を吐いた。
 会談の時も、茜さまと雪乃さまは散々言い争っていたっけ。

「影時から月哉さまを桜子がお守りした時、雪乃さまも3人を追いました。そして雪乃さまだけが負傷して帰ってきた。『影時と戦闘になって、桜子が月哉さまを匿った』と、言った……南龍屋敷で看護した時にお聞きしました。なのに、雪乃さまには3人を追った記憶すらない」

 意味不明です、と眉根を寄せる。

「失礼ですが、負傷による譫言だったとか……」

「譫言だったとしても、3人を追いかけたことは事実として残るはずでしょう? 頭でも打ったのかしら……」

 釈然としない様子の茜さまに、小さく頷く。
 会談の時から2人の記憶のズレはおかしいと、僕も思っていた。

(記憶の、ズレ?)

――今のはなし。残すのは幸せだけでいい。
 良い子ね、優月……。

 母さんが翳した、光の滲んだ手のひら。
 あれは、怖い記憶を、龍たちの戦いを目の当たりにした僕への記憶操作だった。

 同じことを、母さんは雪乃さまにしたのか? 
 いや、でも雪乃さまの記憶を封じる理由は? 
 匿う場所を隠すためか? 
 むしろ味方である雪乃さまには、知っておいてもらったほうが良いような……いや、母さんは同じ南龍である茜さまにすら明かしてなかったんだ。
 西龍である雪乃さまには知られたくなかったのかもしれない。

 記憶を封じたのが龍の力によるものだとすれば、母さんではなく、影時が雪乃さまにかけたという可能性もある。
 影時が父さんを、月哉をさらおうとしたことを隠蔽し、桜子に罪を被せるために?


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