龍のシカバネ、それに月
3
そういうのは相談窓口にでも行け、ともっともな意見をつけ加える。
「すみません……」
「とにかく、今夜は休め。明日、井葉の家に連れていく。学校は手続きが終わってるから、いつから行っても構わない」
学校にも行けるんだと思うと、嬉しかった。
母が亡くなったあの日、自分にはもう無理だと思っていたから。
「学校……嬉しいです。久賀さんのおかげです。ありがとう……」
嬉しくて、自然に笑みがこぼれる。
無言でいる久賀さんを見上げると、じっ僕を見ていて。
目が合ってることに気づくと、慌てたように口元を手で押さえた。
「勉強は、できるうちにやっておいたほうがいい」
「はい。あの……井葉、さんの家というのは……」
さっき久賀さんが「明日連れていく」と言った家。
確か車の中でも言っていた。
久賀さんが言葉を選んでいるような顔をしている隣で、山瀬さんがちらりと僕を見た。
「青鷹さま。井葉家が先でよろしいのですか? それでは他が――」
久賀さんがそれを制するように、小さく手を上げた。
山瀬さんが口を閉ざすと、久賀さんが僕に視線をくれた。
「井葉の家には、優月に会わせたい人がいる」
「わかりました。明日もよろしくお願いします」
お礼を言って久賀さんの背中を見送ってから、部屋に入って。改めてその豪奢さに目がくらんだ。
アパートの部屋の何倍の広さだろう。
テーブルの上にマフィンとサンドイッチが置いてある。
(これ自由に食べて良いのかな)
後でいただこう、と皿を置いた。
クローゼットには学校の制服らしいものも吊ってある。
本当に行けるんだと思うと嬉しくて、足元に置いてあった鞄の中から教科書を拾い上げて、しばらく立ち読みしてしまった。
幾時が過ぎて、就寝時間になったころ、お腹の虫が鳴く。
(サンドイッチ、いただこうかな)
テーブルの上を顧みて、飲み物がないことに気づいた。
(パンを食べるなら、なんか飲むものが、欲しい……)
時間が遅いだけに、部屋のドアをこっそり開いて廊下に出た。
足元の絨毯に部屋履きを進めながら、寝間着の上に羽織ったカーディガンの袖に腕を通した。
道順は山瀬さんの後を歩いている時に覚えたつもりで。
(あった。途中でちらっと見えたんだよね。台所)
中に入って、やっぱり驚いてしまう。
広い、のと。
何もかもがでかい。
(こんなに大きなお屋敷ともなると、お客さまの数も僕が想像できないくらいなんだろうな)
そんな家の人が、朝陽と僕を探してくれていて、生活の面倒を見てくれて。
――龍の贄だ。
そのセリフも含めて、何もかもに現実味がない。
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