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龍のシカバネ、それに月
6

 西はすでに2人きり。
 三龍のうち、一番集団として成り立っているのはおそらく南龍だ。

――正しいとか正しくないなんてのは関係ない。
 続いてきたから続ける。
 続けることに意味があるんだよ。
 伝統ってのはね。

 山茶花の部屋で聞いた紅騎さんの言葉が、今更にずしりと重みを持つ気がして。
 そうやって南龍は結束を強め、生き延びてきたのだと言われている気がした。

「匣姫をさらってきたの? 朝緋。お手柄だね」

 奥の間に進もうとする廊下の角に、音もなく立っていたのは紅騎さんだった。
 さっきまで考えていた本人が目の前に現れたことに、少し驚かされた。

 朝緋に向けて、薄い笑みを浮かべている。
 再会した時から紅騎さんは、年の離れた弟に対してだけは少し優しく見える。

「それとも頼まれたの? 『蒼河を解放してほしい』とでも、キス1つくらい?」

 ちら、と僕を見る目からは表情が消える。
 やっぱり僕は、紅騎さんのことが苦手だ。

(蒼河さん……)

 先の匣姫 朋哉さんを斬った蒼河さんは、紅騎さんの手で南龍屋敷の地下に連れて行かれたのだと聞いた。

「……蒼河さんの処遇については、僕が口を出せる問題ではありません……」

「ふうん? ずいぶん冷たいんだね。蒼河が先の匣姫に手をかけたのは、青鷹と優月が話してるのを聞いたからだっていうのに」

「……えっ」

――色名龍の中でも、件の禁事を知ってるのは限られてる。
 相手が色名でも、優月ちゃんからその話を振るのはやめておいたほうが良い。
 青鷹にもね。

 灰爾さんの忠告を、僕は守ったとは言えない。
 紅騎さんが言うように実際口に出して話したわけじゃないけど、それは青鷹さんの配慮があったから。
 僕が喋らずに済んだだけの話だ。

――匣宮朋哉を操っていたのは、その兄、月哉だった。
 20年前、ここを出た、優月の父親。
 ……それが、匣宮の禁事か……?

「そんな……あの時の話を聞いて? それで、朋哉さんを……」

 斬った。
 単身、東龍屋敷に入り込んで……否、東の色名龍が東龍屋敷にいたからと言って誰も咎め立てすることはない。
 実際、同じ日に僕は東龍屋敷にいた蒼河さんに会っている。

 紅騎さんが、揺るがない意志と同じ目で僕を見つめた。

「『上層部が、今はないにも関わらず、匣宮の無言の圧力に適わないなら、自分がやるしかない』と。後先を見据えない、浅はかな英雄思想には、まったく反吐が出る」

「そんな……」

 灰爾さんが『誰にも禁事を言ってはいけない』と言ったのは、誰かが偶然耳に入れてしまう、このケースをも危惧しての忠告だったのだ。
 それを僕は解さず、蒼河さんを追いこんだ。

「なぁ。それってさー、今話さないといけないこと?」

 唐突に、間に入ってくる朝陽に、紅騎さんは小さく眉をひそめた。


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あきゅろす。
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