龍のシカバネ、それに月 4 早く、青鷹さんの匣になるために、匣姫の体に早くなりたくて。 ちらっと振り返った青鷹さんがため息をついた。 「ちょっと、頭冷やしてくるから。先に寝ていなさい」 「青鷹さんっ……」 ズボンを握ったまま、慌ててベッドを降りて追いかけるけど。 目の前でドアは閉まった。 かちゃんと、外側から鍵をかける音がする。 「青鷹さん、待って下さいっ……」 ノブをがちゃがちゃと回すも、鍵がかかったドアは開くわけもなくて。 足音が遠ざかる音が聞こえる。 「ごめんなさい…知らなくて、ごめんなさい…」 騙されたわけじゃないけど、自分できちんと調べてから動くべきだった。 慎重さに欠ける行動は、絶対に僕の責任だ。 (このまま……西龍の匣の体に変化してっちゃうのかな……ううん、灰爾さんはまだ何回かやらないと『匣姫の体』にはならないって言ってた……) ドアにもたれたまま、ずる、と体を落として、絨毯に腰を落とした。 (僕は、色んなことを焦りすぎなのかもしれない) 涙が浮かびそうになった目元を手の甲でこすりながら、青鷹さんのベッドに戻った。 さっきまで触れられていたせいか、体が重い。 窓を覗くと、青鷹さんが走っている姿が見えた。 その先に、灰爾さんと紅騎さんがいるのも。 (何? どうして後継が集まってるの?) 青鷹さんはただ怒って出て行ったわけじゃなくて、何か話し合いをするために? (……聞きたい) 振りかえるけど、ドアの鍵は掛かっている。 出られる場所は窓しかない。 でも。 (これ以上、呆れられたくない) ベッドにもぐりこんで、目を瞑る。 早く早く、朝になれば良い。 「優月っ、優月、起きろ! …ったく、なんで久賀の部屋なんかで寝てんだよ」 雑な物言いに夢から覚めると、うっすらと開いた視界に、学校の制服姿の朝陽が立っているのが見えた。 朝陽の制服姿は久しぶりに見る。 隊を率いていくよりよっぽど良い。 僕が、最初に朝陽に望んでいたことだ。 「朝陽」 半身を起こして、下を着てないことに気がついて、慌てて上掛けを引っぱった。 見下ろしてくる朝陽の顔が、見られない。 「〜〜…っ…。朝陽、どうやってこの部屋に入れたの? 鍵、どうしたの?」 昨晩、青鷹さんが出て行く時、外から鍵をかけられて開けられなかったのに。 見上げると半分呆れたような顔をしている朝陽が、まだ僕のことを眺めていた。 「……真っ赤になっちゃって。山瀬さんに『優月に会いたい』つーたら、ここに連れて来られて、鍵も開けてくれた。……まさかとは思うけど、久賀に監禁されてるとかじゃないよな?」 「ちっ、違うよ!」 [*前へ][次へ#] [戻る] |