龍のシカバネ、それに月
2
男性は山瀬(やませ)と名乗って、僕の鞄を持ってくれた。
「お疲れでしょう。部屋にご案内致しましょうね」
先を歩く久賀さんの後ろに山瀬さんが歩いて、朝陽と僕はその後ろを従いて行く。
時折、彫像が立っていたりしてドキッとしてしまう。
こんなのが当たり前に立っている家って、すごい。
朝陽が隣で、くんと袖を引いてきた。
いつもの人見知りだろうかと振り返ると、朝陽は珍しく小声で耳に近づいてきた。
「久賀ってさ、死んだ親父の親戚筋だって言ってたろ? もしかして親父の縁切った実家もこんくらい……」
「朝陽」
台詞を途中で止めておく。
「そんなの、僕たちが詮索するようなことじゃないから。朝陽も忘れて」
そうだけど、と耳を垂らした仔犬みたいな表情になる。
「これだけの家なら、親父も母さんも死なずに済んだんじゃないかと思って……」
朝陽の腕を引いて、その肩にこつんとこめかみをつける。
朝陽の言うことは正しいかもしれなくて、間違っているかもしれなくて。
過ぎたできごとに「もしあれがあったら」と思うことはせんのないことだ。
ただ、今の朝陽にそれを言ってしまうのは酷な気がした。
同じような形をしたドアを幾つも過ぎた廊下で、山瀬さんは立ち止まった。
「こちらが優月さまの、こちらが朝陽さまのお部屋でございます」
「えっ」と二人同時に反応してしまう。
多分朝陽が言いたいことと僕の言いたいことは同じだ。
「二人別々の部屋なんですか!?」
山瀬さんが焦った顔で「はい」と返してくる。
「ご一緒のほうが?」という質問にも僕たちの声が重なってしまった。
「はい!」
「あ、別々のままでも……あれっ?」
隣に立つ朝陽にじろっと睨まれる。
「優月は別々でも良いんだ!?」
「もう用意して下さったんだから、今夜はこのままで良いんじゃ……」
「わかったよ!」
ふてくされたみたいな顔を見せてから、朝陽は自分に宛がわれた部屋にさっさと入って行ってしまった。
「……反抗期って、あれぐらいだっけ?」
久賀さんがぼそっと言うのが、耳に痛い。
残された山瀬さんと久賀さんに「すみません」と謝っておく。
山瀬さんが恐縮したように謝ってくれるのが心辛くて。
「ベッドを運び入れれば、ご一緒にお過ごしいただけますよ?」
どうなさいますか、という問に、後ろから久賀さんが「もういいだろう」と口を挟んでくる。
「たまには優月も一人でゆっくりすれば良い。まだこれだけしか行動を共にしてない俺から見ても、おまえは朝陽の面倒をみすぎだ。逆に朝陽の自立心を奪いかねない」
「っ! そうなんでしょうか!?」
自分でもうっすらそんなことを考えることもあったけど、第三者から改めて聞かされるとそれが正しいような気になってくる。
じっと視線を合わせて返答を待っていると、久賀さんは急に焦ったみたいに表情を緩めた。
「……すがるような目で見られても、返事に困る」
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