龍のシカバネ、それに月
1
車での移動中、どうしても眠くなって、まぶたが降りるまま寝息を立てていた。
石か何か踏んだのか、車体が軽くバウンドして目が覚めた。
隣にすわる朝陽は同じように眠っていて僕の肩にもたれていて。
鞄の中からジャケットを引っ張り出して朝陽の肩にかけて、ふと見る窓の外は夕焼け色に染まっていた。
なんだか森の中の道を走っているみたいだ。
「優月。起きたのか」
「はい。すみません、運転してもらってるのに寝てしまって……」
そんなことは気にする必要はない、と帰ってくる。
ミラーごしの顔と一瞬目が合う。
昨日のことを思い出すと顔から火が出そうになるほど恥ずかしいのに、久賀さんからは一切そういう感じはない。
言葉でもはっきり「小動物」だと言われたアレは言葉通りの意味なんだろう。
「あと10分ほどで着く」
はい、と返して、寝息を立てる朝陽を揺り起こす。
面倒そうに目をこすりながらも、外の景色を見ると「うわっ、すげえ田舎!」と声を上げた。
「久賀ん家って、こんな田舎にあるんだ……」
しみじみと失礼なことを言う朝陽のひざをぽんと叩いて諫める。
「これからお世話になる家のことを、どうだこうだ言うのはなしだよ」
「目に見えたこと言っただけだろー?」
「確かに田舎だからな」
運転しながら久賀さんはくすくす笑った。
「久賀の家は狭い。井葉(いば)の家でも、最終的には好きな場所に住むと良い」
やった、選び放題! と単純に声を上げる朝陽の横で僕はきょとんと言葉を返せずにいた。
僕は当分の間、久賀さんの家でお世話になると思っていたから。
(井葉……新しい単語。人の名前?……)
車が止まった。
荷物を用意して降りようとしていたら、ドアが外側から開いた。
制服を着た男の人が立っている。
おずおずと外に出ると、昨日泊まったホテルも吃驚するような洋館が、鬱蒼と繁る森の中に鎮座していた。
「……でけえ……」
後から車を降りてきた朝陽が、ぽかんと口を開けて仰ぎ見ているのを注意する余裕もないすごい迫力で建っている。
(さっき、『久賀の家は狭い』って言ってなかった……?)
この家が狭いんなら、僕たちがいたアパートなんてどうなるの。
比較対象にもならない。
「おかえりなさいませ、青鷹さま」
邸内から現れた、こちらも制服姿の初老の男性が、久賀さんを見てから、僕たちに視線をくれた。
僕が頭を下げると、朝陽が隣でそれに倣う。
「青鷹さまが見つけられた、ハコミヤの?」
「佐藤優月です。こちらは弟で朝陽といいます。お世話になります」
ハコミヤの単語に被せるようにして名乗ったのは、多分怖かったからだ。
『ハコミヤ』の持つ不気味な意味に。
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