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龍のシカバネ、それに月
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 でも。
 だとしたらなぜ、匣姫が意にそまぬ相手に配置されるということが起こるんだ?
 朋哉さんは、波真蒼治の元に行きたかったわけじゃない。
 朋哉さんの希望する相手、珠生さんが後継ではなかったから?
 藍架さまは「そうではない」と首を横に振った。

「我らが話し合うのは確かに『匣姫の配置先』。しかし、相応しいのは、どの龍かという検討をするだけだ。決定権はない。決定を下すのは飽くまでも『託占』だ。
 頭領会議で出ていた龍以外の場所に配置される場合も、もちろんある。会議で出た龍が、必ず配置先になるというわけではない」

(なんだ……)

 にわかに湧かせてしまった期待が外れていたことに、多少脱力してしまう。
 それを見たからか、目が合った青鷹さんが小さな苦笑を浮かべているのが見えて、急激に恥ずかしくなった。

 僕の中の欲を、青鷹さんに見破られた気がして……いや、実際見抜かれているのだろう。

(また『子供』だって思われたかもしれない)

 恥ずかしい。
 いつだって、青鷹さんは僕の心を見抜いている。

「では、結局は託占がなければならないということですね。会議で出た意見は、その後行われる託占に、少しは影響があるのですか?」

 僕が恥じているうちに、青鷹さんが質問を続けてくれて、それがまた知りたかったことで。
 青鷹さんが、僕のために聞いてくれているのかもしれないと、ふと思った。

 藍架さまは「無論、ご考慮はあるはずだ」と返した。
 会議で出た案は、少しは託占に影響を与える、と。

「では、その会議に出られないということは、四龍にとって匣姫を手に入れにくくなる不利な立場に立たされるということですね?」

 青鷹さんの問いに、藍架さまは「是」と頷き、僕を振り返った。

「北龍頭領 八神影時は、会議に立ち入ることを許されぬまま。匣姫 月哉さまは西龍頭領 雪乃どのに配置されるという託占が下った。
 それが、影時が月哉さまにこだわる一つの原因であろう」

 藍架さまの静かに語る話に、「そういうこともあるかもしれない」と思って頷いた。

 そもそもがフェアじゃなかったのだ。
 北龍の性格をよく知っているわけじゃないけど、公平さに欠けた決定を、あの影時がすんなり受け入れることは難しかったに違いない。

「それで儀の前に、月哉さまをさらおうと画策した影時を、桜子が止めたのですよ」

 憤慨した様子で、茜さまが強い口調で言うのを藍架さまは是非を出さなかった。
 証明してくれる人はいない。

「さて。単に配置先が嫌で匣宮を出て行かれるのに、桜子が手を貸しただけかもしれない」

 それまで黙っていた朱李さまも、茜さまの話にかぶせるようにして言った。
 それを聞いた雪乃さまがじろりと南を睨めつける。

「なぜ、北龍は会議に招かれなかったのですか……?」

 やりとりを邪魔するようにも思ったけど、聞かずにはいられなかった。

 だってこれが一番の根本だ。
 四龍を公平に扱わなかった匣宮にだって、非がある。

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あきゅろす。
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