[携帯モード] [URL送信]

龍のシカバネ、それに月
9

「私が月哉さまの配置先であったことは認めますが、私は桜子どのが影時と一戦交えているところなぞ見ていない」

「嘘です。貴方ご自身も傷を負って帰って来られた。そして仰いました。『桜子どのに月哉さまを託してきた』と」

「見ていないことを口にするわけがないでしょう。貴女の妄想話に、いつまで匣姫さまにつきあわせるおつもりです?」

 雪乃さまの台詞で、その場にいた者全員の目が、僕に集まった。

 無論、会話を繰り広げていた雪乃さまと茜さまの2人も。
 まるで両者の目に『どちらの言い分を信じるのか』と詰め寄られているようで。

「えっと……雪乃さまの他に見ていたという方は……?」

「おりません」

 そこだけは2人同時に返してくる。
 これじゃあ、まったく真実がわからない。

「藍架さま。最初に仰っていた、『北龍がなぜ匣宮月哉を狙うのか』というお話を聞かせていただけますか」

 皆のやり取りを遠巻きに眺めるような顔をしていた藍架さまが、我に返ったように僕を見た。
 後継の位置に立つ三人も、視線を藍架さまに移動させている。

(後継の皆は、20年前の話をどこまで知っているんだろう)

 聞いてもはっきりとした答を返してはくれそうにないけど。

 藍架さまは茶を一口すすった後の湯のみを、節の立った両手の中に包んだまま、どこか遠くを見るような目をして言った。

「あの時、20年も前の、月哉さまの儀の事前。託占の前の会議に、北だけ呼ばれなかった」

「託占の前の会議……?」

 初めて聞く話に、肩に力が入った。

「託占の前の会議って何を話し合うんですか? 集まるのは頭領たち?」

 少し前のめりになって、矢継ぎ早の質問を出す僕を、後ろから静さんが服の裾を引いてくれた。
「落ちついて」と言ってもらった気がした。
 でも。
 鼓動が激しくなる。
 託占の前に頭領たちが集まって話し合うことって、もしかしたら。

「集まるのは匣宮と、四龍頭領。議題は『匣姫の配置先』だ」

「!」

 藍架さまの落ちついた声色で綴られたセリフに、息を飲んだ。
 心中で「もしかして」と浮かんでいた予想が当たっていた。

 託占の前に、頭領たちと匣宮が、匣姫の行き先を決める。
 それをあたかも啓示があったかのように『託占』の名をつけて公表する。

(託占なんて、存在しなかった、ってこと……?)

 僕が押し黙ってしまったことが原因か、しんと静まり返った場に、青鷹さんの声が横から入ってきた。

「つまり『託占』とは名ばかりで、四頭領と匣宮の話し合いで、匣姫の配置先が決まっていたということですか?」

 僕が思ったのと同じ疑問だ。
 まるで代弁を引き受けてくれたようなタイミングに、思わずすがるように藍架さまを見返してしまった。

(だって。託占がなくて、話し合いだけで配置先が決まるなら、僕は青鷹さんの匣になれる可能性がある)


[*前へ][次へ#]

9/16ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!