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龍のシカバネ、それに月
7

 朱李さまと茜さまって、ご夫婦仲良くないの!? 
 それより雪乃さまとものすごく険悪そうなんだけど!

 一瞬、場の空気に飲まれかけていると、東の藍架さまが「匣姫さま」と低い声をかけて下さった。
 良く見ると、藍架さまと青鷹さんの後ろに、薄い生地に錦木(にしきぎ)が描かれた几帳が立っていて、その向こうに人が座っているのに気がついた。

(珠生さんだ)

 僕の視線に気づいたのか、表情はよく見えないけど、ひらひらと手を振ってくれたのがわかった。
 安心した。
 心の中まではわからないけど、外見は変わってない。
 いつでも良いから、また珠生さんと話す時間が欲しい。

「匣姫さま。20年前の儀について、お尋ねだそうで。わたくしどもの力が及ぶ限り、お話させていただきたいと存じます」

 藍架さまの低く落ちついた声色に、知らず喉を鳴らした。

(やっと、聞ける。父さんと母さんが、ここを出た時の話を)

 好きな者同士、手を取り合ってはいけない2人だった。
そんな彼らの話を。

「12年前、匣宮が呪詛を受けたことは、お聞きであろう。その折り、我ら三龍は当時の匣姫 朋哉さまを失った。匣姫をさらったのは四龍の1人、北龍頭領 八神影時」

 それもすでにお会いになったことと思う、と続く藍架さまの落ちついた声に、僕はこくりと頷いた。
 この辺りは既に聞き及んでいる話だ。

 焦ってはいけないと自分に言い聞かせる。
 朋哉さんの事件が、匣宮月哉……父さんのそれと繋がりがあることは薄々わかっている。

「匣姫。八神影時がなぜ、先の匣姫 朋哉さまをさらったか、理由はご存知か?」

「えっ……」

 逆に問われることは想像していなかった。

 北龍が朋哉さんをさらった理由。
 それは。

(朋哉さんが2つ月で、もう一つの器に入っていたのが、匣宮月哉だったからだ)

 これは匣宮の禁忌。
 だけどここは頭領会談の場だ。
 これを口にしても良いのか? 

 迷ったまま、視線が灰爾さんに向かった。
 視線を合わせた灰爾さんは困ったように笑うだけだ。

(どうしよう)

 まだ口ごもっていると、雪乃さまが扇子をばたばたと動かし始めた。

「匣宮の禁忌、朋哉さまのご体質について、時を経るごとに我らも薄々に解してきた。しかし決定打となるものも、対策もないまま、北龍と対峙する日々を悪戯に費やすこととなってしまっていた……。
 藍架どのの質問は、『北龍頭領 八神影時が、亡くなった月哉さまが入った朋哉さまをさらった理由』をご存知かということですよ。優月さま」

 そうさらりと言ってから、扇子で隠した口元を緩ませる。
 助けてもらったことに、小さく頭を下げてから、雪乃さまの台詞を頭の中で繰り返した。

(北龍が匣宮月哉をさらった理由?)


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