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龍のシカバネ、それに月
4

 驚いて青鷹さんから離れようとするのを、がっしり捕まえられてしまう。
 意地悪な微笑が、僕を見つめている。

「なんで…やです、そこ…」

 スラックスごし、下着ごし。
 触れられたって、布ごしだけど。
 でも。

 キュッと閉じた口を、指の腹が円を辿るようにして撫でてくる。

「…んっ、ん…」

 歯を食いしばっていても漏れてしまう声を、再び青鷹さんの胸に押しつけて。
 膝が、揺れてしまう。
 だんだんと熱く、頭がぼんやりと靄がかかったようになってきた。
 やばい。
 コントロールしているはずの“匣の匂い”が解放されてしまう。

「いい匂い…ここ、触られて感じだしたから…?」

「違っ…だめです…」

 嫌だ。
 気持ち良くなってきてしまう。
 無意識に動いてしまう口を、青鷹さんの指に知られてしまう。

「ふ……はっ…嫌…」

「優月に触れるのが、早く俺だけになると良いのに」

 耳元で囁かれる言葉に、ぎゅっと閉じていた目を薄く開く。
 見上げると、青鷹さんが薄く苦笑を浮かべていた。

 まだ、紅騎さんたちに僕が触れられたこと、気にしてるのかな。
 不可抗力だって言っても、気にするよね……もし逆の立場だったら、多分……僕も嫌だ、と思う。

「祝言……したら、僕は、青鷹さんの匣に、なれますか……?」

 腰の奥から指をするりと外して、肩をぎゅっと抱きしめてくれる。
 青鷹さんの息が耳にかかって。

「なれない。匣姫は託占でしか動けない。でも」

 がっかりしてしまった前半のセリフから、ちょっとだけ希望を持って続きに耳を傾ける。

「優月が『誰のもとにいたいか』って気持ちは公表されるだろう? 法がどうとか、そんなのは俺にはどうだっていいんだ」

 珍しく、“ルール”をどうでもいいと言い放つ青鷹さんの表情を不思議に思って見つめる。

「ここにいるしかないなら、ここで皆に優月の気持ちが誰にあるか知らしめれば、それでいい」

 青鷹さんの腕のぬくもりを感じながら、嬉しいと思う反面。それでも。

「それじゃ、だめです」

 ちょっと吃驚したような顔をする青鷹さんに、僕は自分が欲張りだったのを自覚した。

「だって、結婚してる人も、託占で匣姫をそばに置けたのでしょう? もし祝言をしてても、僕が誰かの匣に決まったら青鷹さんから離れて、その人と?……そんなの、嫌、です……」

 全部言い切る前に、僕を抱く腕にぎゅーっと力が入った。
 痛いくらいで、でも抵抗しようかと思ったのは一瞬だけだった。
 青鷹さんが、僕と同じ気持ちでいてくれることが、嬉しくて。

(託占)

 12年前の朋哉さんが珠生さんと裂かれた、あれが最後だった。


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