龍のシカバネ、それに月
2
「は!? え、そうですか? ありがとうございます!」
静さんが選んでくれた、僕みたいなのでもスーツに見える優れものだ。
以前、初めて三龍会談があった時、浩子さまに山のようにスーツを積まれて、とっかえひっかえ着せられたことがあったっけ。
「頭領会談も2度目になりますと、少しは気楽でございましょう?」
「そう……かもしれないですね」
歯切れの悪い返事をしてしまったのは、やっぱり緊張しているからかもしれない。
頭領たちと顔を合わせるのは、まだ慣れていない。
議題も議題だ。
(20年前の出来事について、頭領たちが語ってくれる……)
自分で提案した議題を、青鷹さんが掛け合って通してくれた。
いざ、真実を知っている人たちから話を聞くとなると、やっぱり怖い気がして。
「場所は、井葉屋敷の地下?」
頭上から降ってきた声に顔を上げる。
縁側に、障子にもたれるようにして蒼河さんが立っていた。
あの大雨の日、紅騎さんの代わりに、隊を連れて北に向かった。
朋哉さんが開いた山茶花の宴のあった深夜、北龍を追って戻ってきたのだと静さんに聞いていたけど。
(傷だらけだ……)
僕自身、昏倒してしまっていたから、負傷した皆に力をあげることができていなかった。
蒼河さんの他にもいるはずなのに。
蒼河さんの質問に浩子さまが「そうです。東龍屋敷の地下です」と答えた。
ふうん、と返している蒼河さんのそばに、立ち上がって近づくと、その体を緩く抱きしめた。
「お、おい。優月?」
「じっとしていて下さい……」
力を分ける。
僕の中にある力を、蒼河さんに。
自分の中にある緩やかに輝く光を、ゆっくりと蒼河さんに流していく。
最初は僕の唐突さに驚いていた蒼河さんも、すぐに僕の言うようにじっと体を止めて、力を受け取ってくれた。
「……サンキュ。だいぶ楽になった」
耳元で言ってから、耳たぶを軽く食まれた。
「ひゃっ……! だめですよ、蒼河さんっ」
僕が腕を放しているのに、今度は逆に蒼河さんが腰に腕を回してきていて、離れられない。
空いたもう片手の指が、僕の唇をなぞった。
「っ!?」
「抱きしめられるのも良いけど、こっちから力、流して欲しかったなぁ♪」
そのまま、指の腹で唇の表面を撫でて、端から指先を滑り込ませてきた。
舌の表面を、そろりと撫でられる。
「っ…ぅ、やめ…」
「……お二人とも。病人の前ですよ。大声で騒がないで下さいませ」
朋哉さんの枕元に正座したまま、浩子さまが淡々とした口調で「それと、優月さま」と続けた。
「は、はい?」
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