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龍のシカバネ、それに月
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『高校生!?』という驚き方を見る限り、中学生だと思われていたんだろうか。
 いや、今そんなのどうでもいい……気を取り直し。

「朝陽。こちらは久賀青鷹さん。お父さんの親戚の方で、ずっと僕たちを探して下さってたんだって」

「……へぇ? どうも」

 雑な反応をしながら、僕の腕を引いて自分に引き寄せる。

 朝陽の癖で、僕が自分の知らない人と話しているといつもそうだ。
 きっと不安になるんだろう。
 体は僕よりずっと大きくなってるけど、朝陽は子供なのだ。







 母の葬儀は、自治会長さんのお世話になった。
 僕は会長さんの後に従いて挨拶をしたり、何か身内でしかわからないことに返事をしたりするだけだったけど、悲しんでいる間もなかった。

 一週間後、ようやくことが落ちついてきたころ、僕たち兄弟の前に久賀さんがすわって、話を切り出してきた。

「君たちを、久賀の家で引き取りたい」

 名前も佐藤のままで良いし、生活学費、一切の支援をしてくれるという申し出だった。

 久賀さんが現れたときから、何となくそれに近いことを言われるんじゃないかとは思っていた。
 父の実家はほとんど縁を切った状態で時が過ぎてきたけれど、もしかしたら後悔していたんじゃないか?
 父を探して、復縁したいと、そう思っていたんじゃなかって。

 実際に耳にすると、ありがたい話なのに物凄く不安になる。
 新しい生活なんて、今は想像すらできない。

「ここは、お母さんとの思い出のある場所だろうとは思うが、引き払って……君たちには新たに生活の場を受けいれてもらいたい」

 身内を失った僕たちに配慮した、優しい言葉。

 これからのこと――。
 ずしりと肩にのし掛かる言葉だった。

 正直なところ、貯金と言える金額はなかった。
 僕が時間の許す限りのアルバイトで貯めていたお金も、似たようなものだ。
 学校を辞めて働いたとしても、朝陽と2人で生きていくに、足りると言える金額ではない。
 金銭的に援助してもらえることは、ものすごく助かる。
 朝陽もこのまま、何の心配もなく学校を続けさせてやれる。
 だけど。

「いくら親戚だと言っても、会ったばかりの久賀さんにご迷惑をかけるわけにはいきません……」

「元々、久賀が君たちを探していたのはそうしたいと思っていたからだ。遠慮はやめて欲しい。一方的に支援されるのが嫌なら、大人になってから返金するというのでもいい」

 後半の提案に真実味はない。
 僕を納得させるための提案なんだろう。

 朝陽が横で、僕の袖を小さく引いた。

 久賀さんがホテルに帰っていくタクシーを見送った後、隣に立つ朝陽が「どうするつもり?」と聞いてきた。

「まさか、久賀の言うとおりにするって言うんじゃないよな?」

 アパートの錆びた階段に、朝陽のスリッパの音がかんかん響く。

 お金はない。
 久賀さんはああ言ってくれているけど、正直、彼はまだ“よく知らない人”だ。
 悪い人じゃないと思うけど、僕はともかく、朝陽の身を託して良い人物かどうかわからない。
 わかる方法もわからない。

「本当に親父の親戚なのかどうかもわからないぜ? なんせ、今までつきあいがあったわけじゃなかったんだから」

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あきゅろす。
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