龍のシカバネ、それに月
8
青鷹さんのそばにいられるなら、祝言でも手の内でも、何でも良い……。
青鷹さんは椅子ごと僕に近づいてきて、膝の上に握っていた手を、両手で包まれた。
「優月がつらい時に、そばにいてやれなくて……悪かった」
青鷹さんに謝られることなんてない。
それなのに。
(僕がつらい時、そばにいようと思ってくれてることが、嬉しい……)
うつむくと、僕の手を包んでいる青鷹さんの大きな手が視界に入ってしまって。
手だけのことなのに、まるで抱きしめられでもしているみたいな気持ちになって、顔に熱が上った。
「つらくなんて……なかったです。ずっと足手まといでしかなくて。でも、龍の皆の傷を治す役目をもらえて、初めて役に立てた気持ちになれて……」
そうか、と相づちを打ってくれる声色が優しくて。
「初めて、匣宮の人に、朋哉さんに会えて。匣の力をもらったり、教えてもらえたりしたんです。それで、青鷹さんにも力を送れて、嬉しくて」
「俺も、嬉しかったよ。優月に守ってもらえてるみたいだろ?」
「僕が、青鷹さんを、守る……なんて、そんなの」
おこがましい、と言おうとして、唇の端に軽いキスをくれた。
そっと触れるだけの、優しい口づけ。
それから? と問うてくる。
「それから……朋哉さんが……」
2つ月であることを、知った。
何者かに支配されている朋哉さんごと、太刀で貫いたのは、行方知れずだった珠生さんだった。
朋哉さんを支配していたのは――匣宮月哉――死んだはずの父さん、だった。
……。
――色名龍の中でも、件の禁事を知ってるのは限られてる。
相手が色名でも、優月ちゃんからその話を振るのはやめておいたほうが良い。
青鷹にもね。
さっき、灰爾さんにそう言われたばかりだ。
(青鷹さんは、朋哉さんが2つ月だって知らないんだろうか)
だけど三龍後継のうち、2人が知っている。
後継が知っているということは、頭領3人は多分承知しているのだろう。
もしかしたら、配置先だった波真蒼治も知った上で受けていたのでは?
波真蒼治も、当時東龍後継だった。
青鷹さんも知っている可能性も、高いんじゃないだろうか。
「…………」
かと言って、西龍後継である灰爾さんに止められているのに、匣宮にまったく精通していない僕が禁忌を語るなんて、それこそおこがましい話なんじゃ……。
「優月」
手を包んでくれていた青鷹さんの手が離れて、ゆっくりと肩を抱き寄せた。
暖かい、ひなたの匂いがする胸元。
頬が体温に触れると、何もかも話して、頼って、楽になりたいと思ってしまう。
僕が考えていることが不透明だということが、青鷹さんを不安に思わせているのがわかっていても……言えない。
後頭部を触れていた手が、そっと髪を撫でてくれる。
耳元に唇を寄せて、耳の輪郭に触れた。
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