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龍のシカバネ、それに月
7

 僕がまくし立てているのに、うんうんと軽く頷きながら、青鷹さんは自室のドアを開けて僕を招き入れた。

「どうぞ。体がつらかったらベッドを使ってくれても良い。優月の部屋に送って横にならせてやりたかったが、あいつらのいるバルコニーがすぐ横だからな」

 横になるべきなのは青鷹さんのほうだと、しつこく言いたくなるのをぐっと飲み込んだ。

 あいつら、って灰爾さんと紅騎さんか。
 僕が紅騎さんに触れられた話を聞いて、青鷹さんがその場を走り出てしまったという灰爾さんの話を思い出して、なんとなく顔を赤らめながら、椅子に腰を下ろした。

(その後、祝言……プロポーズ……されたんだった……)

 意味もわからず「ありがとうございます」なんて言っちゃって、きっと子どもだなって、呆れられてる。

「何か飲むか? 食べる?」

「いえ! 紅茶2杯とお粥2杯いただいたところなんです! もう入りません!」

 わかった、と言いつつ、僕の力一杯な返事に忍び笑いをこらえているのが見える。
 どうしてか青鷹さんと2人っきりでいると、緊張して仕方ない。
 べつに初めて2人になるわけじゃないのに。

「悪かったな、さっき」

「……え?」

 青鷹さんに謝ってもらうことなんて、何にもないけど。
 今度は青鷹さんのほうが目もとを薄く染めて、視線を逸らした。

「その、体の調子が良くないのに。起き抜けに、祝言なんて言って」

「えっ!? いや、そんな……えっと……」

 上手いフォローが見つからない。
 あわあわ焦るだけの自分が、やっぱり子どもに思えて、軽く落ちこんでいると、目の前で青鷹さんが小さく笑った。

「そういう、すぐ焦ったり照れたりする所は、前と同じなんだけどな」

「僕……前と違いません、よ?」

 いや、とあっさり否定する青鷹さんをおずおずと見上げる。
 さっきまで照れたような顔をしていたのに、もう普通に余裕がある顔に戻っている。

「前と違うよ。匣姫らしくあろうとする所が。色々、大変なことがあったんだろう?」

 先の匣姫も朝緋に渡したまま、投げたようなものだったしな。
 そう続ける青鷹さんに、首を横に振った。
 その後、たった1人で最大の敵と対峙していた青鷹さんより大変だった人なんていない。

 匣姫らしくあろうとする、心中を見透かされているみたいで、ちょっと恥ずかしかった。
 背伸びしているのが、バレた時みたいに。

「大変なんかじゃ。青鷹さんのほうが、僕なんかよりよっぽど……」

「前は、俺が一番優月を知っていたのに、今は知らないことやわからないことが色々ある。それが全部、いなかった間のことらしい。灰爾や紅騎は全部わかってるみたいで、それが無性に腹立たしい。
やはり俺は、自分の手の内に優月を閉じこめておきたいらしい。祝言でも何でもやって、な」

 やっぱりさらっと言われて、それが無性に照れくさい。

(閉じこめて下さい……)

 なんて、思う僕は変なのかな。


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あきゅろす。
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