龍のシカバネ、それに月
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灰爾さんは、そう、と笑って頷いたけど。
(灰爾さんと紅騎さんが知ってて、同じ後継である青鷹さんが知らないってこと、あるのかな)
確かに、2人に比べて後継になった時期は遅いけど。
そういうので、情報量の違いってあるのかな。
そんなことを考えてると、灰爾さんがニヤニヤ笑いながら「紅騎」と声をかけた。
「さっきから『託占で配置先の決まる匣姫に媚びても仕方ない』って言ってるけど。今、託占ができる人がいないんだからね? 託占なしで配置先を決める場合、唯一無事な匣宮の人間として、優月ちゃん本人が選ぶ可能性もないとは言えないね」
確かに灰爾さんが言うとおり、託占ではっきりさせてほしいと思ってみても、できる人はいない。
かと言って、匣宮のしきたりを何も知らない僕が配置先を決めるなんて大それたこと、できるかどうかは疑問だ。
(このままだと確実に、自分の好き嫌いで……青鷹さんを選ぶと思う!)
自分でもエゴ丸出しだと思っていると、無表情の紅騎さんがじっと僕を見つめているのに気がついた。
「なっ、何ですか!?」
なんとなく紅騎さんが相手だと、構えてしまう。
紅騎さんは無表情のまましれっと「優月、おまえ今日可愛いな」と言ってから、苦虫をつぶした。
「……無理。いくら後継として南龍繁栄に身を捧げる覚悟はあっても、思ってもないこと口にし続けるなんて……ストレスだ」
「ばっ! そんな無理、してくれなくて、良いんですよ!!!!」
灰爾さんはそのやり取りを見て、げらげら笑っていた。
(まさか僕を玩具にして遊ぶために訪ねてきたんじゃないよね、この2人っ……!?)
空になったカップに紅茶のおかわりを注ごうとするメイドさんに断って、「そろそろ……」と立ち上がりかけた時、急に紅騎さんに手を取られた。
中腰のまま、紅騎さんに目をやる。
やっぱり無表情で、何考えてるんだかさっぱりわからない。
「? どうし……」
「優月さ。あの後、手が痺れたりもやもやしたり、痛かったりすること、ある?」
紅騎さんのした問いかけは、聞いたことがある。
前に、朋哉さんが匣の蓋を開ける作業をしてくれていた時に、同じ質問をくれた。
「ない、ですけど……それがどうし――」
「ないならいい」
「? どういう……」
ことですか、とまで言う前に、目が合った。
バルコニーの出入り口に立っていた青鷹さんと。
誰もいない廊下を歩きながら、「体の具合は――」と言い出したのは2人同時だった。
お互いに顔を合わせて、小さく笑う。
「俺のほうは大丈夫だ。優月が力をくれていたおかげで、離れで北龍に遭った時も動けたし」
さらっと言ってのける青鷹さんに頷きかけて、止まってしまった。
「北龍に遭った!? まさか外の戦闘の中に青鷹さん、いたんですか!?」
まだ療養中なはずだ。
ずっと北龍と対峙していた場所からやっと帰ってきてすぐなのに。
「灰爾さんが『見にきてもいい』って言ったのは、本当に見るだけでしょう!? 長期間の戦いから、それも川と大雨に流されて帰ってきたばっかりなのに、また出て行くなんて――」
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