龍のシカバネ、それに月
3
魂として存在していたなら、どうして僕たち家族のもとに帰ってきてくれなかったのだろう。
どうして、北龍のもとになんか?
――優月のために……。
――違う、よ……こんな、望んでない。
傷ついた顔をしていた。
でも、こんなのはだめだ。
僕のためにと思って動いてくれているなら、尚更だめだ。
ドアがノックされた。
肩からずり落ちていた羽織りをパジャマの上に引っ張り上げると「どうぞ」と返事をした。
膝の上の盆も、どけておかなくちゃ。
思えば浩子さまにもだらしない格好を見せてしまった。
慌てて盆をサイドテーブルに移動させていると、ドアを開けて入ってきたのは青鷹さんだった。
足早に近づいてくる青鷹さんの眉間には、縦皺が刻まれている。
「な、何かあったんですか?」
もしや、北龍が報復に来たとか。
いや、だったら青鷹さんがここにいるわけもないかと頭に巡らせている間に、青鷹さんは僕の手から盆を外してサイドテーブルに載せ、改めて僕の手を両手で包んだ。
「!?」
眉間の皺はそのままで、じいっと僕を見た後、唐突に口を開いた。
「祝言をあげよう」
あまりの真剣な眼差しに、こくこくと頷く。
先刻、浩子さまが言った「もらえるものは素直にもらえば良いのに」という言葉が頭をよぎった。
「ありがとうございます。……でも、シュウゲンて何ですか?」
僕の手を握ったまま、青鷹さんはがっくりとうなだれた。
「最近の若い子は『祝言』も知らんかねー。結婚じゃよ、結婚ー」
ふざけた調子で言う灰爾さんの横の席に腰を下ろしながら、紅騎さんまで無表情に言う。
「最近の若いヤツは関係ない。単に優月がバカだからだ」
部屋から続くバルコニーに用意されたテーブルセットには、サンドイッチとマフィン、紅茶が載せられていて、隅には久賀家執事の山瀬さんが立っている。
お粥を2杯食べた後じゃ、食べられる感じしない。
紅茶だけいただいて、2人の話に相槌を打った。
「へー……結婚のこと『シュウゲン』って言うんですかー、へー……。
って、え!? 結婚!?」
ほら今頃脳に達してる、と紅騎さんが指さしてくるのを、灰爾さんが軽く笑った。
「わ、笑い事じゃないです」
結婚て。
お、男同士なのにっ。
「だよね。託占もまだなのに、祝言なんかされちゃ、俺ら南と西はやりづらいよね」
そういう問題じゃないです。
「でも先の匣姫の時は、波真蒼治に妻子もあった状態で配置されたって言うし。あ、それと優月ちゃんが青鷹と結婚してたら立場が逆か」
「そうだよ。匣姫が結婚してて、配置先は別の場所ってどういう状態だよ?」
マフィンを千切って口に運びながら、淡々とすごいことを言う紅騎さんに、灰爾さんも「それ、すごい状況だよな」と笑う。
(僕にしたら、今現在もすごい状況なんだけど!)
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