龍のシカバネ、それに月
10
瞬間、消えたはずの扉がばんと音を立てて開いた。
幾つもの足音が入り混じる。
シャッターみたいな閃光が幾つも閃いた。
駆け込んできた龍たちの手から、力が放出されているのだと、ぼんやりわかった。
その中、脇目もふらず、真っすぐに朋哉さんに向かって行った影があった。
「優月!」
名前を呼んでくれた青鷹さんが、僕を抱きしめて視界を覆うように胸元に頭を掻きいだいた。
だけど、僕には視えてしまっていた。
北龍の影と戦う龍たち。
現れた時と同じに、壁に染み入るようにして撤退していく北龍。
絶望的な表情をした先の匣姫。
彼を背後から羽交い絞めに抱く紅騎さん。
そして。
「朋哉ぁっ……!」
いるはずのない珠生さんが見たこともない太刀を構えたまま、朋哉さんの名を呼び、濡れたように光る刃を彼の胸に突き込んだ。
「────っ……!」
見開かれた美しい、黒すぎる目。
赤い唇が何か言いたげに動く。
「……たまき……」
そして笑ったのだ。
泣き出しそうな顔をして、笑った。
嬉しそうに、口元を綻ばせて。
「来て、くれたんだ。……ありがとう……」
歯が鳴り始めた。
震えが、止まらない。
冷たくなりすぎた指先がかじかんで、痺れて。
上手く青鷹さんの肩を掴めない。
息が、できない。
「あ…あ、ああああ!」
獣の咆哮のような叫びが、自分の喉から出ていることもわからなかった。
抱いた背中を手のひらでさすられ、繰り返し名前を呼ばれた。
「優月、大丈夫だ。もう外に出るからっ……」
僕を抱き上げた青鷹さんが、階段を上って、離れを出た。
明け方の白々とした太陽が、うっすらと闇を照らし始めていた。
幾つもこぼれ落ちていく涙で歪められた視界に、意味なんてない。
(嫌……嫌だ、こんなのは……違う……)
珠生さんが朋哉さんを刺す。
ありえない。
ありえないことをさせる状況。
父さんを……匣宮月哉を殺すために。
「青鷹! 優月ちゃんは……」
声で、近づいてくるのが灰爾さんだとわかった。
青鷹さんの肩にこめかみをつけたまま、名前を呼ぼうとするのに、舌がうまく回らない。
「何も言わなくて良いよ。何も考えないで良いから」
夢の中、朋哉さんは言った。
人差し指を唇につけて。
――それより大事な話だ。
2つ月の対抗策よりも、北龍対抗策を考えることのほうが大事なんだ、と。
(2つ月のほうは、すでに考えてあったんだ)
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